ぶつぶつと文句を言う彼だったけれど、その紅葉の包装がされた箱を開けると、パタリ。声も動きも止まった。
箱から出ていた紐を指差しながら、わたしは彼のそんな反応には気付かない振りをして話を進めた。
「その紐を引っ張るとですね、スイッチになっていてすぐに箱の中身が温かくなると思います」
「……」
「なので、よければ熱々にして食べてくださいね。白あんと黒あん、両方とも上手くできたと思うので」
「……」
固まってしまっているマサキさんを覗き込むと、ゆっくりと視線が合う。手元の今川焼きとわたしを交互に見て、ほんの少しだけ泣きそうに笑う。
「……ほんま、敵わんなあ」
「また、会いに行ってあげてください。マサキさんのこと、待ってると思うので」
「……おおきにやで」
「わたしはやりたいようにやってるだけなので」
「ほんまに。これもやけど組のことも。ほんまにほんまに、おおきにやで、葵ちゃん」
「……はいっ」
そっと、窓から伸びてきた手を握り返す。
「あ。サラさんのことはまだ内緒ですからね? マサキさんだけ、特別です」
「サプライズやな? 任せとき」
ふっと笑った彼は、用意していた紐を引っ張って「ほな、またな」と車を走らせていった。
やっぱり、だいぶお仕事で疲れているらしい。こんなにも嬉しそうな彼を見たのは、初めてだったから。
❀ ❀ ❀
待ち人が来るまでもう少し時間がある。そう思って、自分から捜しに行こうとしたのが、多分間違いだったんだろう。
「次は俺だあー!」
「副将! お願いしやすっ!」
……どうしてこうなった。
――――――…………
――――……
ここは、桜ヶ丘大学。捜し人がいる場所は何となく予想ができていたので、学内地図を見てそこに向かおうとしていた時だ。
『どこに行こうとしてるの? 案内しようか』
通行証を首から提げていたから、わたしが外部の人間だということはすぐにわかったんだろう。方向音痴のわたしには本当に有難い申し出だった。初めはそう思っていた。
『……あの』
『ん? どうかした』
けれど、だんだん近くなっていく距離。増えていくボディータッチ。終いには。
『(あぁああぁ、どうしようどうしよう……! 言った方がいいよね絶対。……直接? 警察? いやでも証拠残しておいた方が……)』
『すみません後ろの方』
『ひええっ!? は、はい! 私!?』
『今見てました?』
『え?! えーっと……?』
『この彼の手が、わたしのどこに触れたか』
『……ええ! バッチリ見てた!』



