すべての花へそして君へ③


 ぶつぶつと文句を言う彼だったけれど、その紅葉の包装がされた箱を開けると、パタリ。声も動きも止まった。
 箱から出ていた紐を指差しながら、わたしは彼のそんな反応には気付かない振りをして話を進めた。


「その紐を引っ張るとですね、スイッチになっていてすぐに箱の中身が温かくなると思います」

「……」

「なので、よければ熱々にして食べてくださいね。白あんと黒あん、両方とも上手くできたと思うので」

「……」


 固まってしまっているマサキさんを覗き込むと、ゆっくりと視線が合う。手元の今川焼きとわたしを交互に見て、ほんの少しだけ泣きそうに笑う。


「……ほんま、敵わんなあ」

「また、会いに行ってあげてください。マサキさんのこと、待ってると思うので」

「……おおきにやで」

「わたしはやりたいようにやってるだけなので」

「ほんまに。これもやけど組のことも。ほんまにほんまに、おおきにやで、葵ちゃん」

「……はいっ」


 そっと、窓から伸びてきた手を握り返す。


「あ。サラさんのことはまだ内緒ですからね? マサキさんだけ、特別です」

「サプライズやな? 任せとき」


 ふっと笑った彼は、用意していた紐を引っ張って「ほな、またな」と車を走らせていった。
 やっぱり、だいぶお仕事で疲れているらしい。こんなにも嬉しそうな彼を見たのは、初めてだったから。


 ❀ ❀ ❀


 待ち人が来るまでもう少し時間がある。そう思って、自分から捜しに行こうとしたのが、多分間違いだったんだろう。


「次は俺だあー!」

「副将! お願いしやすっ!」


 ……どうしてこうなった。


 ――――――…………
 ――――……


 ここは、桜ヶ丘大学。捜し人がいる場所は何となく予想ができていたので、学内地図を見てそこに向かおうとしていた時だ。


『どこに行こうとしてるの? 案内しようか』


 通行証を首から提げていたから、わたしが外部の人間だということはすぐにわかったんだろう。方向音痴のわたしには本当に有難い申し出だった。初めはそう思っていた。


『……あの』

『ん? どうかした』


 けれど、だんだん近くなっていく距離。増えていくボディータッチ。終いには。


『(あぁああぁ、どうしようどうしよう……! 言った方がいいよね絶対。……直接? 警察? いやでも証拠残しておいた方が……)』

『すみません後ろの方』

『ひええっ!? は、はい! 私!?』

『今見てました?』

『え?! えーっと……?』

『この彼の手が、わたしのどこに触れたか』

『……ええ! バッチリ見てた!』