『自分の好きにやってみたらいいんだよ』
「お父さん、そうは言うけどさあ……」
ぐるぐる自分で考えても結論に至りそうになかったので、気になったら即行動。歩きながら父に電話を入れてみる。
「いやでしょう? こんな生温い覚悟で跡継ぎ引き受けられても」
『そうは言うけど、もし跡を継ぐことになったとしても多分だいぶ先の話だよ?』
「え? そうなの?」
『俺何歳だと思ってんのよ娘』
「それもそうだね」
『それに、俺が跡継いでまだ少ししか経ってないんだよ? あおいの方がそりゃ優秀だろうけど、もう少し父を立てておくれ』
それもそうか。なんだろう、やけに腑に落ちてしまった。
『でも、早くから覚悟していることは悪いことじゃないと思うよ。俺にはそれができなかったから』
「だから逃避行したんだもんね」
『そうそう。もし気になることがあるなら、おじいちゃんにいろいろ聞いてみるといいよ』
「それもいいかもね」
『うん。だからまだ何も焦る必要はない。一番自分がしたいことを一生懸命見付けなさい』そう教えてくれた父は、その後一言二言話をして電話を切った。
今日もどうやら忙しいらしい。娘としては、母から無事ハートのチョコレートをもらえたのか。そっちの方が心配ではあるけれど。
今まで決められた道を歩んできたわたしにとって、無限の可能性がある中からどれかを選ぶのは、至極難しい。悩んで悩んで、苦しんで。でも、どこか前向きになれたのは、やっぱり実の父親の言葉だったからだろう。
「わたしの好きなこと、かあ」
「お嬢さん。おじさんとちょっと話さへん?」
「おじさんとは話しまへん。お兄さんとなら、いいですけど?」
「葵ちゃんよう見てみ。目の前におるのはおっさんやで」
「わたしにはお兄さんにしか見えませんよ。マサキさん」
「……どこ行くん? 送ったるさかい、お兄さんの車にちょっと乗ってついでに話でもしようや」
少し恥ずかしげにお兄さんと言った彼は、大きな黒いバンの助手席へ、わたしを促した。後部座席には、組合の人が何人かいらっしゃったが、皆さん疲れて今はぐっすりと眠っているようだ。
「お急ぎじゃないんですか?」
「今済んだとこや。おっさんたちの寝顔ほど気色悪いもんないで」
「前だけ向いとき」と、頭に大きな手が乗った。
「……あの、送ってもらうついでにお願いがあるんですけど」
「ん? 何や。遠慮せんと言ってみ」
「ちょっと、寄って欲しいところがあるんです」
「そりゃ、ええけど……」



