すべての花へそして君へ③


『自分の好きにやってみたらいいんだよ』

「お父さん、そうは言うけどさあ……」


 ぐるぐる自分で考えても結論に至りそうになかったので、気になったら即行動。歩きながら父に電話を入れてみる。


「いやでしょう? こんな生温い覚悟で跡継ぎ引き受けられても」

『そうは言うけど、もし跡を継ぐことになったとしても多分だいぶ先の話だよ?』

「え? そうなの?」

『俺何歳だと思ってんのよ娘』

「それもそうだね」

『それに、俺が跡継いでまだ少ししか経ってないんだよ? あおいの方がそりゃ優秀だろうけど、もう少し父を立てておくれ』


 それもそうか。なんだろう、やけに腑に落ちてしまった。


『でも、早くから覚悟していることは悪いことじゃないと思うよ。俺にはそれができなかったから』

「だから逃避行したんだもんね」

『そうそう。もし気になることがあるなら、おじいちゃんにいろいろ聞いてみるといいよ』

「それもいいかもね」


『うん。だからまだ何も焦る必要はない。一番自分がしたいことを一生懸命見付けなさい』そう教えてくれた父は、その後一言二言話をして電話を切った。
 今日もどうやら忙しいらしい。娘としては、母から無事ハートのチョコレートをもらえたのか。そっちの方が心配ではあるけれど。

 今まで決められた道を歩んできたわたしにとって、無限の可能性がある中からどれかを選ぶのは、至極難しい。悩んで悩んで、苦しんで。でも、どこか前向きになれたのは、やっぱり実の父親の言葉だったからだろう。


「わたしの好きなこと、かあ」

「お嬢さん。おじさんとちょっと話さへん?」

「おじさんとは話しまへん。お兄さんとなら、いいですけど?」

「葵ちゃんよう見てみ。目の前におるのはおっさんやで」

「わたしにはお兄さんにしか見えませんよ。マサキさん」

「……どこ行くん? 送ったるさかい、お兄さんの車にちょっと乗ってついでに話でもしようや」


 少し恥ずかしげにお兄さんと言った彼は、大きな黒いバンの助手席へ、わたしを促した。後部座席には、組合の人が何人かいらっしゃったが、皆さん疲れて今はぐっすりと眠っているようだ。


「お急ぎじゃないんですか?」

「今済んだとこや。おっさんたちの寝顔ほど気色悪いもんないで」


「前だけ向いとき」と、頭に大きな手が乗った。


「……あの、送ってもらうついでにお願いがあるんですけど」

「ん? 何や。遠慮せんと言ってみ」

「ちょっと、寄って欲しいところがあるんです」

「そりゃ、ええけど……」