【……僕は、見つけたから。居場所を。僕が僕でいられる場所を。帰ってくる場所を。大切な人を】

〖……君の隣は、わたしを普通の女の子でいさせてくれたと、思っていたのにな〗


「一番の理由は、普通でいられる場所が、普通になれた拠り所ができたからだと思うんだ。だから俺は、道を間違わずに進んでいける」

「……道」


 彼女にずっと、付き纏っていたものだからとでもいうのか。
 聞こえるはずなどないのに。聞いた覚えもないのに……。


【……だから、僕は負けない。帰る場所がある限り。彼女が僕を同じように愛してくれている限り。僕のことは、いくらでも罵るといい。けれど、彼女を傷付けることはたとえ誰だろうと許さない】

〖……わたしが、普通の女の子だったら、よかったのかな〗


 劇の台詞に混じって、頭の中で、彼女の声が鈍く響いた。


「でも間違わないでね? 何回も言うけど、君に声をかけてもらえたのはすごく嬉しかったんです。優しさの押しつけなんて全然思ってないから! 根っから優しい人なんだな~って。俺も見倣わないとって思ったよ!」

「……優しくないよ、オレ」


 だって、あいつみたいになりたいって、そう思ったことも言った言葉も決して間違いなんかじゃないけれど。


【だから、そこで見ていてくれ。あなたの王子は誰よりも強いのだと。その目に、心に焼き付けるように】

〖――わたしは。ヒナタくんがいるから強くあれるんだよ!〗


 ただ、なれるわけないって言われたのが悔しくて腹立ってあまり考えなかったけど。そのあと、どうしてあいつが悲しい顔をしたのか、何もわかってなかった。


「十分、俺は優しいと思いますよ?」

「……一つ、訊いてみてもいい?」

「お、俺なんかが答えられればいいんですけど。先に言っておきますが、難しいことはわかりませんよ!? 特に数学は苦手だから!」

「……もしかしたら、気を悪くするかもしれないんだけど」


 何について訊かれるのか。恐らく全部はわかっていなくても何となく気が付いたのだろう。
 ふっと微笑みながら首を傾げた彼は、静かに続きを促した。


「普通……じゃない人の、隣にずっといるには、どうしたらいいのかな」

「……えっと、それが答えなのでは……?」

「え?」

「だから、隣にずっといたいっていうのが、君の答えなんじゃないのかなー……なんて」

「――……」