すべての花へそして君へ③

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 彼女の背中が小さくなっていくのを、じっと見つめる。それが曲がり角でふっと消える前に、一度こちらに手を振ってくれた彼女に俺も振り返して、家の中へと戻る。
 リボンが紫色だったのは、何も意図してやったことじゃない。母が先程花屋から帰ってきたその花束を、結んでいたものだ。玄関の花瓶に生けるのだと、意気揚々としていた母は今、買い忘れがあったと再び花屋に駆けていったけれど。というか多分、そちらがメインだ。

 もうすぐ、あいつらの誕生日だから。


「ただいまー! あれ? つばちゃんお花生けてくれたの?」

「生けた……というか、突っ込んだだけだけど」


 それこそ、束になっていたままをそのまま。けれど、母は何故か嬉しそうに笑ってくれた。


「十分綺麗よ。ありがとう」

「……あのさ。この花束結んであったリボンなんだけど」

「うん?」

「使っちゃったんだけど、よかった?」


 もちろんよ! 全然構わないわ!
 そんな風に言ってくれるんだろうと、勝手に思っていたけれど。


「何に使ったの?」


 母は、何かを確かめるように、じっと俺の瞳の中を覗いた。


「……何に、か」


 いつだって、いつも心を決めてくれるのは彼女だった。彼女の声が、言葉が、手の平が、いつだって俺の背中を押してくれて。俺の心に、力をくれた。


「……強いて言うなら、断ちたくてかな」


 でも、それじゃあ駄目だから。彼女ばかりに頼っているわけでもないし、俺自身が成長してないわけじゃない。
 それでも俺は、俺の力だけで遣り遂げてみたいことがある。


「ふーん。断ちたくてかあ」

「……変?」

「うんっ!」

(実の母に変と即答される息子……)

「変っていうのは、変化を意味するのよ?」

「……母さん?」

「つばちゃん。今日は一段とイケメンさんね」

「……」

「大人記念に、美味しいご飯作りましょーね」

「……ありがとう」

「じゃあ、早速お支度するわ!」

「慌てると転けるよ」


 それも、決して一人の力でできることではないけれど。誰かの、優しさと小さな心遣いを支えに、俺は一本の道を進んでいこう。


「……あ。もしもし、ご無沙汰しています。九条です。先日のことで少し、お伺いしたいことがあるんですけど――……」


 目下俺の夢は、この紺色のリボンを結んでくれた彼女を一番に驚かせ、そして笑顔にさせること。まずはそこからだ。