すべての花へそして君へ③


 ぐっと言葉に詰まる音が聞こえて、思わず笑みがこぼれてしまう。ほら。やっぱりそう言いながら、あなたも【大丈夫】だと、一瞬でも思ってしまったんだ。
 ただどうしても素直に受け入れて背中を押すことができなかったのは、自分の中に【責任】の二文字が、彼女を手放すなと、そう言っていたから。
 手綱を手放してしまった手前、縛られているものがなくなって不安で仕方がなかったから、滅多にかけに来ない番号へ、手を伸ばしてしまったんだ。


「大丈夫です。あの子なら、あの子たちならきっと。自分たちの力で遣り遂げますよ」

『……それを疑っているわけではない』

「わかってます。だから、見守っていてあげましょう? それが、私たち大人の仕事です」

『……私たち大人、か』


 僅かに笑いがこもっている声に、思わず首を傾げる。何か、可笑しなことを言っただろうか。


『お前も、大人になったんだな』

「やめてくださいよ。もういいおばさんなんですから」


 電話口の笑い声に小さくむすっとしながら、それでも自分も可笑しくなって笑っていると、ふと、先程指に絡めたリボンに目が行く。律儀な彼女のことだ。彼のところにも行っているということはきっと、渡したのだろう。


「葵ちゃんに貰ったんでしょう? 私も、毎年言うようですが一応準備だけはしてますので、いつでも取りに来てくださいね。なんなら届けに行ってもいいですよ」

『そうだな。ではそうすることにしよう』

「えっ」

『食事にでも行くか。久し振りに』


 とうとう幻聴が、願望が聞こえるようにもなってしまったのか。そんなことを考えている間もなく、彼の主題は彼女に貰った例の箱に移っていた。


『賭けをしてくれと、そう言われた』

「葵ちゃんにですか?」

『ああ』

「どんな賭けを?」

『もう大丈夫だと言われた時、同調したか。1ミリたりともしなかったか』

「……それで?」

『聞かなくてもわかるだろう』

「そうですね。だからこうして電話くれたんですもんね」


 負けたくなかったのなら、嘘でもはったりでも言ってみればよろしかったのに。ま、嘘が吐けない彼だから、それは仕方のないことだけれど。


「じゃあ、葵ちゃんから貰った箱には、銀色のリボンが結ばれていたんですね」

『いや、それだけではなくてだな』

「……? 他にも?」

『ああ。朱色と紺色』


 銀は、立ち向かう挑戦の意思。朱は、多くの感謝の証。そして紺は、支えとなりたい思いが強くあること。


『あと緑色と黄色』

「ふふっ」

『……何か可笑しかったか』

「いいえ、別に。何でもありません」


 緑は、体を大切にして欲しい気持ち。何をするにしても、体が資本ですから。無理をするなと。いい歳なんだからと。