すべての花へそして君へ③


「そもそも、何故私の許しがいる。勝手に交際でも何でもしていろ」

「え? いいんですか?」

「何故私が、他人の色恋沙汰に巻き込まれなければいけない。というか巻き込むな。迷惑極まりない」

「でも、あまりいい顔してないですよね」

「勘違いも甚だしいな」

「……わかりました。じゃあ話を変えましょう」


 素直に聞き入れてくれない彼に、わたしは机に広げた資料を指差しながら話を進めていく。この資料たちは、わたしが今までしてきたことの成果だ。彼に頼まれた仕事もそう。自分が率先してやって来た仕事もそう。
 そのデータや、それに伴う結論。気付いたこと。気になったところ。そんなことをまとめた、プレゼン資料。


「――ですので、恐らく目的というのは」

「止まれ」

「え? あ、はい」

「……はあ。わかった」


 数時間に及ぶプレゼンに待ったをかけた彼は、それだけ言ってひとまずぬるくなったはちみつレモンに手を伸ばす。
 それを確と飲み干してから、再びゆっくりと口を開いた。


「お前がもらいたいのは、交際の許可ではなく“隠し事”への許可だろう」

「そうですね。結果的には」

「何が結果的だ太々しい。私の元にはすでに報告が上がっているぞ。お前が、九条日向に“話した”とな」

「はい。話しました」

「お前は、私の命令を破った」

「はい」

「……何も言い訳はない、か」

「言い訳はありません。言い訳は、ないですが」


 出し惜しみしていた一枚の資料を、鞄からそっと取り出した。


「……何だ、これは」

「何だと思いますか?」


 紙に描かれていたのは、よく見る普通の棒グラフ。横には(年)、縦には(回数)と書かれており、一年ごとに青とピンクの棒グラフが上に伸びていた。
 それは、年を追うごとに減少していっているのが一目瞭然で、青はピンクに比べて遙かに少なかった。


「使えるものはとことん使っちゃいなさいと、事前に許可は戴きました」

「……何だと」

「寂しいと、一言」

「……」

「ただそれだけ、言付かってきました。いえ、言わないでと言われましたか」

「……」


 静かに、その一枚の紙を受け取った彼は、小さく頭を抱えた。


「お前は、私に一体どうして欲しいんだ」

「もういいよと、それだけです」

「……?」

「それだけ言ってくれれば、もう十分です」


 けれど、頑なに首を縦に振ろうとしない彼は、続けてこう加えた。


「この命令には大事な役目があるのだと、口に出してはいないが私はお前にそう伝えたつもりだった。それを、お前は理解していないのか」

「いいえ」

「なら何故」

「もう大丈夫だと、そう思うからです」


 信じられないようなものを見る見開いた目の彼に、ふっと笑みをこぼしながら、わたしはリボンが結ばれた箱を取り出した。


「ねえボス。わたしと――賭けをしませんか?」


 ――――――…………
 ――――……