すべての花へそして君へ③


 そして、ゆっくりと自分の胸に手を当てる。


「だから、人から心配されることとか、優しくされることが、俺にはちょっと、苦しくて……」

「……ごめん」

「え? あ、違います違います! 君は別格!」

「……別格?」

「だって、このマークが見えたわけでも、俺が変な歩き方してるのを見たわけでもないでしょう? 本当に、俺のこと心配してくれたんだって、ちゃんとわかってますから」


 純粋に手を差し伸べようとする人も、勿論いるだろう。けれど、そうでない人もやっぱりいるんだ。


「多分、悪い風に考えてますよ」

「え?」

「俺、その人の心とか動機まではわからないので」

「……」

「自分で何とかなるのに、大丈夫なのに、優しさを押し付けられているようで、ただただ苦しくて……悔しくて」


 また、さっきみたいに彼は俯く体勢になる。
 この体勢が癖なのかこの方がラクなのかわからないけれど、丸くなった背中をぽんぽんと叩いた。


「あああ、また猫背になってた」

「よくやるの」

「机があるとよく突っ伏すんです」

(お、仲間がいた)


「それで何度先輩に叱られたことか……」と、苦笑いする彼の雰囲気から察するに、先輩というのは彼女のことのようだ。


「でも、今声をかけられて俺、本当に嬉しかったんですよ」

「どうして?」

「わかりません。俺馬鹿なので」

「オレはただ声をかけただけだし、今までの状況とかわかんないけど……」

「ん??」

「もしかしたらこっちの方が、何か変わったのかもしれないね」


 とん、と自分の心を指差した。初めて見たときに比べて、彼の中で何かが変わったと、そう思ったから。
 すると彼は、また驚いたように目を見開いた。


「すごいね! まるでどこかで俺のこと見てたみたい!」


 ……うん。夢は壊すまい。


「けど、本当にそうなんです。俺がただ、“普通”ってことに酷く執着していただけなんだ」

「考えが変わった?」

「それもある……かな。捉え方っていうのか、それが前に比べて随分広くなったと思います」

「“も”って?」

「だからって、俺が本当に普通になれるかって言ったらそれは違うでしょう? この体はガラクタで、運命共同体だから」

「……運命」