そして、ゆっくりと自分の胸に手を当てる。
「だから、人から心配されることとか、優しくされることが、俺にはちょっと、苦しくて……」
「……ごめん」
「え? あ、違います違います! 君は別格!」
「……別格?」
「だって、このマークが見えたわけでも、俺が変な歩き方してるのを見たわけでもないでしょう? 本当に、俺のこと心配してくれたんだって、ちゃんとわかってますから」
純粋に手を差し伸べようとする人も、勿論いるだろう。けれど、そうでない人もやっぱりいるんだ。
「多分、悪い風に考えてますよ」
「え?」
「俺、その人の心とか動機まではわからないので」
「……」
「自分で何とかなるのに、大丈夫なのに、優しさを押し付けられているようで、ただただ苦しくて……悔しくて」
また、さっきみたいに彼は俯く体勢になる。
この体勢が癖なのかこの方がラクなのかわからないけれど、丸くなった背中をぽんぽんと叩いた。
「あああ、また猫背になってた」
「よくやるの」
「机があるとよく突っ伏すんです」
(お、仲間がいた)
「それで何度先輩に叱られたことか……」と、苦笑いする彼の雰囲気から察するに、先輩というのは彼女のことのようだ。
「でも、今声をかけられて俺、本当に嬉しかったんですよ」
「どうして?」
「わかりません。俺馬鹿なので」
「オレはただ声をかけただけだし、今までの状況とかわかんないけど……」
「ん??」
「もしかしたらこっちの方が、何か変わったのかもしれないね」
とん、と自分の心を指差した。初めて見たときに比べて、彼の中で何かが変わったと、そう思ったから。
すると彼は、また驚いたように目を見開いた。
「すごいね! まるでどこかで俺のこと見てたみたい!」
……うん。夢は壊すまい。
「けど、本当にそうなんです。俺がただ、“普通”ってことに酷く執着していただけなんだ」
「考えが変わった?」
「それもある……かな。捉え方っていうのか、それが前に比べて随分広くなったと思います」
「“も”って?」
「だからって、俺が本当に普通になれるかって言ったらそれは違うでしょう? この体はガラクタで、運命共同体だから」
「……運命」



