――都内某所。
ここでたった今、法螺貝が大きく鳴り響いた。
「よしわかった。表へ出ろ」
「臨むところです」
水を打ったように静まりかえるオフィス内。大の大人と女子高生がじっと睨み合う姿に、幾人もの従業員たちが顔を青くしながらそそくさとその場を通り過ぎていく。
「……去れ。今は忙しい」
「わたしは本気です」
「……」
「そして絶対に負けません」
「……」
「話を聞いてくれないというなら、力尽くでも聞いてもらいます」
どれくらいの時間が過ぎたか。何人の人たちがここから逃げ出したか。
「(……臨むな、大馬鹿者め)」
「へ? 今、なんと……」
「わかった。聞くだけは聞いてやる」
「……! ありがとうござ」
「その代わり、タダで帰れると思うなよ」
ついてこい――そう言った彼の後ろを歩くわたしの姿は、周りの人たちにはどう映っていたのだろう。
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二人の背中が見えなくなってから、喫煙所の扉を開けた男は呟きを洩らした。
「よくもまあ、あの人に真っ向から挑んでいくよな」
それに続いて入る、もう一人の男が大きく頷き続ける。
「やることなすこと派手な上、女子高生のくせに態度はデカいわ図々しいわ」
「たまに人のこと上から見下すように見るのは、やっぱり俺らのことを下の人間だと思ってんだろうよ」
「はあーヤダヤダ。これだから天才様は。上の命令じゃなかったらぶっ潰してたぞ俺は」
「そうそう。元犯罪者のくせして敷居跨いでんじゃねえっつの」
全員が全員。朝日向葵という人間のことを認めているわけではない。許しているわけではない。彼女のしてきたことはそれだけ、影響力を及ぼすものだったのだから。……けれど。
「あ、そっか。お前らはまだ葵ちゃんと仕事一緒にしたことないんだっけな」
同じく喫煙所にいた先輩の男が間に入ってくる。



