こういう素直なところは子どもらしいなと。彼の尊敬する人にはまだまだ足りないなと。
少年に彼の姿を重ねながら、ぎゅっとその小さな体を抱きしめた。
「あお」
「ん?」
「俺の、……家族になってくれてありがとう」
「ああもうっ」
なんてできた子なんだ……! さすがわたしとヒナタくんの教え子だ!
呻き声を上げているにもかかわらずむぎゅーっと強く抱きしめていると、いつの間にほどいたのか。抗議をしている彼の手の中には橙と紺のリボンが。
「あお! いい加減結ばせて……!」
「ご、ごめんごめん……」
「だいたい、あおは本当馬鹿力過ぎるんだって。もうちょっとで俺窒息死してたんだから、ちゃんと自覚してよ。あと――」ぶつぶつと、荒い息でそのあとも文句という文句を呟きながら、彼は左手に橙色のリボンを結んでいく。
「みんなのこと、代表して。じゃないと左手鬱血する」
「……ありがとう」
「それと、この紺色のリボンは俺がもらってもいい?」
「え? それは、いいけど……」
「あ。違うよ! あおのこと、応援してないわけじゃなくて」
「大丈夫。それはちゃんとわかってる」
ぎゅっと、紺色のリボンを握り締めた左手の意図を掴み、わたしは彼のそこへ、同じように結んであげた。
「……おれが、大きくなったら」
「うん」
「役に立ちたい。あおの。ひな兄ちゃんの」
「……」
「いっぱいくれたやさしい気持ちの分だけ。たくさん溢れたありがとうって気持ちの分だけ。お返ししたい。いつか、必ず」
「……そう」
「迷惑?」
「迷惑じゃないよ。そう思ってくれる気持ちがすごく嬉しい」
「でも、あんまり嬉しそうじゃないよね」
「それは、わたしが好きなようにやって来た結果だから」
でも――と、わたしは結んだその紺色に触れてにっこりと笑った。
「ありがとう」
「……え?」
「だって、もう結んじゃったし! 応援してる。頑張って」
「……うん。俺、もう約束は破らないから」
「あんた、イケメンになるよ絶対」
「へ?」
「結婚する時はちゃんと呼んでね」
「気が早すぎ。まずは自分の心配しなよね」
この子が大人になった時。わたしの目の前には、どんな世界が広がっているのだろう。
「もう帰っちゃうの? 残念」
「今から戦に行かねばなりませんので」
「あら。もしかして」
「お察しの通りです」
「ふふっ。なら私の分から一つ、紺色のリボン結んでおいてあげるわ」
「ありがとうございます!」
「応援してるわね。使えるものはとことん使っちゃいなさい」
「はいっ! 行って参ります!」
「よくわかんないけど、頑張ってねあお!」
「おうともさ! やっつけてくるぜい!」
わたしにとっても、この子にとっても、彼女にとっても。みんなにとって、素敵な景色が広がっていたらいいな。



