すべての花へそして君へ③


 こういう素直なところは子どもらしいなと。彼の尊敬する人にはまだまだ足りないなと。
 少年に彼の姿を重ねながら、ぎゅっとその小さな体を抱きしめた。


「あお」

「ん?」

「俺の、……家族になってくれてありがとう」

「ああもうっ」


 なんてできた子なんだ……! さすがわたしとヒナタくんの教え子だ!
 呻き声を上げているにもかかわらずむぎゅーっと強く抱きしめていると、いつの間にほどいたのか。抗議をしている彼の手の中には橙と紺のリボンが。


「あお! いい加減結ばせて……!」

「ご、ごめんごめん……」


「だいたい、あおは本当馬鹿力過ぎるんだって。もうちょっとで俺窒息死してたんだから、ちゃんと自覚してよ。あと――」ぶつぶつと、荒い息でそのあとも文句という文句を呟きながら、彼は左手に橙色のリボンを結んでいく。


「みんなのこと、代表して。じゃないと左手鬱血する」

「……ありがとう」

「それと、この紺色のリボンは俺がもらってもいい?」

「え? それは、いいけど……」

「あ。違うよ! あおのこと、応援してないわけじゃなくて」

「大丈夫。それはちゃんとわかってる」


 ぎゅっと、紺色のリボンを握り締めた左手の意図を掴み、わたしは彼のそこへ、同じように結んであげた。


「……おれが、大きくなったら」

「うん」

「役に立ちたい。あおの。ひな兄ちゃんの」

「……」

「いっぱいくれたやさしい気持ちの分だけ。たくさん溢れたありがとうって気持ちの分だけ。お返ししたい。いつか、必ず」

「……そう」

「迷惑?」

「迷惑じゃないよ。そう思ってくれる気持ちがすごく嬉しい」

「でも、あんまり嬉しそうじゃないよね」

「それは、わたしが好きなようにやって来た結果だから」


 でも――と、わたしは結んだその紺色に触れてにっこりと笑った。


「ありがとう」

「……え?」

「だって、もう結んじゃったし! 応援してる。頑張って」

「……うん。俺、もう約束は破らないから」

「あんた、イケメンになるよ絶対」

「へ?」

「結婚する時はちゃんと呼んでね」

「気が早すぎ。まずは自分の心配しなよね」


 この子が大人になった時。わたしの目の前には、どんな世界が広がっているのだろう。


「もう帰っちゃうの? 残念」

「今から戦に行かねばなりませんので」

「あら。もしかして」

「お察しの通りです」

「ふふっ。なら私の分から一つ、紺色のリボン結んでおいてあげるわ」

「ありがとうございます!」

「応援してるわね。使えるものはとことん使っちゃいなさい」

「はいっ! 行って参ります!」

「よくわかんないけど、頑張ってねあお!」

「おうともさ! やっつけてくるぜい!」


 わたしにとっても、この子にとっても、彼女にとっても。みんなにとって、素敵な景色が広がっていたらいいな。