「――うむ! まあこんなもんでえかろう!」
年が明けてからの学校は自由登校。生徒会執行部としての仕事も、来年度の引き継ぎ資料の作成と卒業式の準備と、残りはその程度。自分のやり残した仕事も、納得がいくところまではまだできていなかったので、みんなの顔を見られる回数はまだそう多くはなかった。
「あれ? あおいさん、こんな朝早くに何してるの?」
「あ、おはようアイくん! もしかして今日登校日?」
「それもあるけど、今日は執行部の集まりがあって」
「そっか。ならちょうどよかった。今置き手紙書こうとしてたんだ」
けれど、前ほど仕事仕事と偏った生活ばかりはしていない。生徒会にも顔を出せるようになったし、家にもきちんと帰ってこられるようになった。もちろん彼氏さんのところにも。
「……これ」
「アイくんのは冷蔵庫に置いておくから、帰った時にでも開けてみてね」
「俺にもくれるの?」
「もちろん! あ、ちなみに一番大きいのがアイくんのね? 小さめの二つがミズカさんとヒイノさんの分だから」
「………………(※感動のあまり声が出ず)」
「それとね? もしよければお願いしてもいい? 執行部で集まるなら、二人の分も」
「それはお安いご用だけど。あおいさん、今からどこかへ?」
「そうなんだ。ちょっとそこまで……戦に」
「い、戦ですか(商談か何かがあるのかな)」
「遅くなるから夕ご飯はいらないよー。もし早く帰れそうだったら連絡するねー」
「れじゃ!」と、朱色のリボンが巻かれた箱たちを託し。エプロンを外したわたしは、仕事用の鞄と紙袋を二つ三つ抱えて、早朝花咲家を後にした。
「帰ってきてからの楽しみが増えた。今日も一日頑張ろうっと」
そう言って張り切って帰ってきた時には、自分用のそれがこの家の主に食べられてしまうという悲しい結末を、この時の彼はまだ知らない。
これは、仕事を一段落させたわたし――葵が、再びあたたかい生活を送っていたとある日に仕掛けた、それはそれは長い長い一日の出来事。
「この勝負、絶対に勝ってみせる」
将来の夢に繋がる第一歩を歩んだ、確かな形跡だった。



