すべての花へそして君へ③


 ふっと笑ったレンは、そんな捨て台詞を残してオーダー待ちのテーブルへと去って行った。
 そのレンの後ろ姿を、じっとオレは目で追いかける。


『お前にとってあおいさんにとって、一番いい答えが見つかるといいな』


(ま、オレよりよっぽど、イケメンか)


 勿論レン目当ての客もいるんだろう。同じ目の動きをしている人が何人もいる。
 走らなかったら相当のイケメンだからな。さすが外人の血が流れてるだけのことはある。見た目だけじゃなく、内面的な意味でも。ま、認めてしまうのは癪だけど。
 そんな言葉は口の中だけに落として、代わりに届いたミックスジュースをちゅうっと思い切り吸っておいた。


 ――――――…………
 ――――……


「直接会いには行かないのか」

「あれだけ連絡したのに? 今更直接会いに行ったところで、出会い頭にグーパンチかまされるのが落ちでしょ」

「出落ちか。それはそれで見てみたいが」

「やめてよ。現実になりそうなんだけど」


 それから会計を済ませたオレはレンと別れ、ショッピングモール内にある書店で雑誌を立ち読みをすることにした。


【これで彼女はご機嫌に!】
【別れる原因は会話の不足!?】
【金の切れ目は本当に縁の切れ目だった! 体験談特集】


(んーと、何々……)


【絶対に当たる恋愛診断!
 ぶっちゃけ! 別れた彼女と縒りを戻せる確率は!?】


 周りからは見てない振りして高速診断した▼
 …………静かに雑誌は元に戻しておいた▼


(そもそもオレたち別れてないじゃん。ただ喧嘩中なだけだし。あんなの当てになんないなんないなるわけないない……)


 意味なく書店の店員を睨み付け、ぶつぶつ独り言を呟きながら無闇矢鱈に歩くこと数十分。その間は一切周りのことなど気にならなかったのに、モール内のベンチに目がいった瞬間、そこに腰掛け俯いている人が、妙に気になって仕方なくなった。
 記憶が正しければ、確か前に一度定食屋で見かけたことがある。彼女と来ていたみたいだったけれど、なんだか雰囲気が普通のカップルとは違って見えて、とても印象に残っていたから間違いないだろう。
 その彼が、どうしてか苦しんでいるように見えて、オレは思わず声をかけた。


「あの、どうかしましたか」

「……えっ?!」


 しかし、声をかけたこちら側が驚くほど、彼は体をびくつかせた。どうやら、オレの勘違いだったようだ。逆に、どうしたのかと不思議そうにこちらを見上げられる。


「すみません、体調がすぐれないように見えたので」

「あ、そうでしたか! 俺も、驚きすぎてしまってすみませんでした。歩いてるとき以外で声をかけられるのは初めてで」