壁一面に広がる懐かしく美しい景色に、上手く言葉が出てこない。代わりにこぼれていったのは、溢れてきたのは、あったかい涙だった。
「泣かせたかったわけじゃないんだけど」
「な、泣くつもりは全然なかったんだけど……」
「てっきりはしゃぎ回るかと思ってたのに」
「なんか、それより前に涙出てきちゃって……」
「だから、お姫様の下りはスルーと」
「ご、ごめん……」
どこまでも続く美しい花畑。果てしなく広がる青い青い空。たゆたう白い雲。眩しい太陽。
景色とともにぶわっと駆け抜けていく、甘い甘い記憶。彼との思い出。
一番大きいのは感動。だけど、すごく懐かしくて、あたたかくて。それがすごく、嬉しくて。涙が止まらなくて。
まさか、あの頃見ていた花畑の景色が今、ここで見られるとは夢にも思わなかったんだ。
「……これ、全部ヒナタくんが……?」
よく見ると、教室一面に飾られていたのは、たくさんの写真たち。いつの間に、こんなにたくさんの写真を撮ってきたというのだろうか。
「ん? うん。まあね」
「すごい……」
「お祝い何してあげようかなーって思ったらさ、これが浮かんで。あの頃の、懐かしい思い出とか。まあ、振り返ってみても面白そうだけど」
「多分、話し始めたら止まらないね」
「でしょ? あと実際に連れて行くことも考えたんだけど。行けないことないし」
「それこそ帰れそうにないかも」
「オレもそうなりそうな気がしてさー。でも“卒業した日”っていうのは一日しかないわけで。あんたをお祝いしたい奴らは、それはそれはたくさんいるわけで」
「わかった。独り占めはよくないと思ったんだ?」
「ま、そんなとこ」
「ははっ」
たとえ本当にヒナタくんが独り占めしていたとしても、誰も何も言わないと思うけど。まあ誰かしら何かは思っているかもだけど。
「でも、結構これで十分じゃない? なかなか上出来」
「うん。いっぱい、たくさん、伝わってくるよ」
「……そ」
「だから、いっぱい。ありがとうヒナタくん」
でも、だからこの短い時間でと、彼は言ったんだろう。気遣い上手さんなんだから。
「少し遅れちゃうかもしれないけど。折角だし、思い出語っちゃう?」
「楽しそうだけど、それはまた今度」
「それはまた、オレん家でアルバムでも見ながら」と、彼は鞄の中から自前のデジカメを取り出す。どうやら花畑をバックに写真を撮るらしい。
「じゃあそこ立って。あーもうちょっと左。いや、そっち右……」
「あはっ。この写真見ながらさ、今日のことも話そうね」
「うん、最初からそのつもり……あ、そこ。そこでストップ。立ったまま動かないで」
「はーい」



