すべての花へそして君へ③


 壁一面に広がる懐かしく美しい景色に、上手く言葉が出てこない。代わりにこぼれていったのは、溢れてきたのは、あったかい涙だった。


「泣かせたかったわけじゃないんだけど」

「な、泣くつもりは全然なかったんだけど……」

「てっきりはしゃぎ回るかと思ってたのに」

「なんか、それより前に涙出てきちゃって……」

「だから、お姫様の下りはスルーと」

「ご、ごめん……」


 どこまでも続く美しい花畑。果てしなく広がる青い青い空。たゆたう白い雲。眩しい太陽。
 景色とともにぶわっと駆け抜けていく、甘い甘い記憶。彼との思い出。

 一番大きいのは感動。だけど、すごく懐かしくて、あたたかくて。それがすごく、嬉しくて。涙が止まらなくて。
 まさか、あの頃見ていた花畑の景色が今、ここで見られるとは夢にも思わなかったんだ。


「……これ、全部ヒナタくんが……?」


 よく見ると、教室一面に飾られていたのは、たくさんの写真たち。いつの間に、こんなにたくさんの写真を撮ってきたというのだろうか。


「ん? うん。まあね」

「すごい……」

「お祝い何してあげようかなーって思ったらさ、これが浮かんで。あの頃の、懐かしい思い出とか。まあ、振り返ってみても面白そうだけど」

「多分、話し始めたら止まらないね」

「でしょ? あと実際に連れて行くことも考えたんだけど。行けないことないし」

「それこそ帰れそうにないかも」

「オレもそうなりそうな気がしてさー。でも“卒業した日”っていうのは一日しかないわけで。あんたをお祝いしたい奴らは、それはそれはたくさんいるわけで」

「わかった。独り占めはよくないと思ったんだ?」

「ま、そんなとこ」

「ははっ」


 たとえ本当にヒナタくんが独り占めしていたとしても、誰も何も言わないと思うけど。まあ誰かしら何かは思っているかもだけど。


「でも、結構これで十分じゃない? なかなか上出来」

「うん。いっぱい、たくさん、伝わってくるよ」

「……そ」

「だから、いっぱい。ありがとうヒナタくん」


 でも、だからこの短い時間でと、彼は言ったんだろう。気遣い上手さんなんだから。


「少し遅れちゃうかもしれないけど。折角だし、思い出語っちゃう?」

「楽しそうだけど、それはまた今度」


「それはまた、オレん家でアルバムでも見ながら」と、彼は鞄の中から自前のデジカメを取り出す。どうやら花畑をバックに写真を撮るらしい。


「じゃあそこ立って。あーもうちょっと左。いや、そっち右……」

「あはっ。この写真見ながらさ、今日のことも話そうね」

「うん、最初からそのつもり……あ、そこ。そこでストップ。立ったまま動かないで」

「はーい」