すべての花へそして君へ③


「まあそれはいいや。それで? ミズカさんヒイノさん、もしかして何かあったの?」

「焦らせてごめんなさいね」

「百合の方は午後からだから、そっちに顔出しておきたくて一応な」


 それだけで十分。つい嬉しくなって、何度も何度も頷いた。


「わたしの分まで見てきてね! あと写真もよろしく!」

「勿論よ。任せておいて」

「アザミさんの分まで、しっかり撮っておかないとな」

「うん! ……うんっ」


 それから――と、ミズカさんはわたしにスマホを手渡す。用件は、何となくわかっていた。


「……お父さん?」

『残念、お母さんでした』

「あ、お母さん! どうしたの?」

『卒業式見てたわよー』


 実は今回、有名人が集う桜ヶ丘高校の卒業式にはメディアも多く入っていた。きっと『わたしがいるから』と理由も、なくはないだろうけれど。
 それが、先刻テレビで放送されたのだという。


『……あ、お父さん。今噛んだわ』

「録画は?」

『ばっちり』

「じゃあ帰って観なきゃ」


 父は、卒業式に顔を出すことはできず。現在はコメントの対応で大忙しのようだ。わたしたちなんか追いかけても、面白いことなんて一つもないんだから、メディアはもっと違うことを取り上げればいいのにねー。


『あおい』

「ん?」

『多分、お父さんも帰ってきたら言うんだと思うんだけど、先に言っておくわ』

「なに?」

『卒業、おめでとう』

「……うんっ! ありがとう!」

『それとね?』

「うんうん」


 ――わたしたちのところに、生まれてきてくれてありがとう。


「……おかあ。さん……」

『大好きよ、あおい』


 帰ったらきっと、「どうだった? どうだったの?」って父からの質問がわんさかやってくるのだろう。それはもう、家中が賑やかになるほど。
 だから、今そんなことを言うんだろう。母はきっと、電話の向こうで泣いている。わたしにも父にも、そんな姿は見せたくないらしい。強くて凜々しくて格好良くて。何処までも何時までも綺麗な母のように、わたしはいつか、なれる日が来るだろうか。


「わたしも、大好きだよ」


 いつか、なりたい。母のような……立派な大人の女性に。