「まあそれはいいや。それで? ミズカさんヒイノさん、もしかして何かあったの?」
「焦らせてごめんなさいね」
「百合の方は午後からだから、そっちに顔出しておきたくて一応な」
それだけで十分。つい嬉しくなって、何度も何度も頷いた。
「わたしの分まで見てきてね! あと写真もよろしく!」
「勿論よ。任せておいて」
「アザミさんの分まで、しっかり撮っておかないとな」
「うん! ……うんっ」
それから――と、ミズカさんはわたしにスマホを手渡す。用件は、何となくわかっていた。
「……お父さん?」
『残念、お母さんでした』
「あ、お母さん! どうしたの?」
『卒業式見てたわよー』
実は今回、有名人が集う桜ヶ丘高校の卒業式にはメディアも多く入っていた。きっと『わたしがいるから』と理由も、なくはないだろうけれど。
それが、先刻テレビで放送されたのだという。
『……あ、お父さん。今噛んだわ』
「録画は?」
『ばっちり』
「じゃあ帰って観なきゃ」
父は、卒業式に顔を出すことはできず。現在はコメントの対応で大忙しのようだ。わたしたちなんか追いかけても、面白いことなんて一つもないんだから、メディアはもっと違うことを取り上げればいいのにねー。
『あおい』
「ん?」
『多分、お父さんも帰ってきたら言うんだと思うんだけど、先に言っておくわ』
「なに?」
『卒業、おめでとう』
「……うんっ! ありがとう!」
『それとね?』
「うんうん」
――わたしたちのところに、生まれてきてくれてありがとう。
「……おかあ。さん……」
『大好きよ、あおい』
帰ったらきっと、「どうだった? どうだったの?」って父からの質問がわんさかやってくるのだろう。それはもう、家中が賑やかになるほど。
だから、今そんなことを言うんだろう。母はきっと、電話の向こうで泣いている。わたしにも父にも、そんな姿は見せたくないらしい。強くて凜々しくて格好良くて。何処までも何時までも綺麗な母のように、わたしはいつか、なれる日が来るだろうか。
「わたしも、大好きだよ」
いつか、なりたい。母のような……立派な大人の女性に。



