「盛り上がってるそこの女子たち~。今から先生が有難~いこと言うから、ちょっと黙ってような~」と、キク先生なんかに注意されたのでお話はここでおしまい。
「はい皆さん、卒業おめっとさん。今から書類とか記念品とか証明書とかちゃちゃっと渡すから、名前呼ばれたら取りに来るよーに」
有難い言葉って何だったんだろう。ていうかどれだったんだろう。
「ほれ、朝日向。さっさとこーい」
「あ、はいっ!」
ハッキリ言うと、プライドって言葉はわたしの中にはほとんど存在しない気がする。本当に格好付けたい時に、ちょこっと出てくるだけだ。多分。
「あ、先生。一瞬席外しても大丈夫ですか? すぐ戻ってきます」
「お、便所か。行ってこい行ってこい」
麗しきレディーに向かって便所とな。全く、最後の最後までゆるゆるな先生なんだから。
「……っと。朝日向」
「……? なんですかキク先生」
何か渡し忘れたものでもあるのか。扉のところまで行っていたわたしのところへ、先生が駆け寄ってくる。
ぽんと、頭に大きな手が乗った。
「ちゃんとしたの、渡せてよかったよ」
「……せんせ」
「は? なんだって? おいおい、デカい方かよ。そりゃお前、待っててやんねーから、満足したら直に生徒会室でいいぞー」
「よっぽどわたしに恨みがあるんですかね」
「ハンカチちゃんと持ったか? 手はきちんと洗ってから来いよ」
「あるんでしょうね、やっぱり」
可笑しそうに笑いながらぽんぽんと頭を撫でてきた彼は、そのままわたしの背中をトンと押した。
「――んじゃ、あとでな」
最後の最後で繰り出される、優しい笑顔に拍子抜け。そんな顔をされてしまっては、怒る気にもなれないというものだ。
「先生何だって?」
「怒られちゃった?」
「あ、ううん。違うよ」
ただ、見込みじゃなくてよかったと。ちゃんとした卒業証明書が渡せてよかったと。
「それから、なんか勘違いされた」
「「勘違い?」」
「うん。多分先生、ヒナタくんから何か聞いてたんだと思うんだけど……」
ちょっとっていうのは、本当にちょっとで。本当に、トイレに抜けるくらいの時間でよかったんだけど。



