すべての花へそして君へ③


「盛り上がってるそこの女子たち~。今から先生が有難~いこと言うから、ちょっと黙ってような~」と、キク先生なんかに注意されたのでお話はここでおしまい。


「はい皆さん、卒業おめっとさん。今から書類とか記念品とか証明書とかちゃちゃっと渡すから、名前呼ばれたら取りに来るよーに」


 有難い言葉って何だったんだろう。ていうかどれだったんだろう。


「ほれ、朝日向。さっさとこーい」

「あ、はいっ!」


 ハッキリ言うと、プライドって言葉はわたしの中にはほとんど存在しない気がする。本当に格好付けたい時に、ちょこっと出てくるだけだ。多分。


「あ、先生。一瞬席外しても大丈夫ですか? すぐ戻ってきます」

「お、便所か。行ってこい行ってこい」


 麗しきレディーに向かって便所とな。全く、最後の最後までゆるゆるな先生なんだから。


「……っと。朝日向」

「……? なんですかキク先生」


 何か渡し忘れたものでもあるのか。扉のところまで行っていたわたしのところへ、先生が駆け寄ってくる。
 ぽんと、頭に大きな手が乗った。


「ちゃんとしたの、渡せてよかったよ」

「……せんせ」

「は? なんだって? おいおい、デカい方かよ。そりゃお前、待っててやんねーから、満足したら直に生徒会室でいいぞー」

「よっぽどわたしに恨みがあるんですかね」

「ハンカチちゃんと持ったか? 手はきちんと洗ってから来いよ」

「あるんでしょうね、やっぱり」


 可笑しそうに笑いながらぽんぽんと頭を撫でてきた彼は、そのままわたしの背中をトンと押した。


「――んじゃ、あとでな」


 最後の最後で繰り出される、優しい笑顔に拍子抜け。そんな顔をされてしまっては、怒る気にもなれないというものだ。


「先生何だって?」

「怒られちゃった?」

「あ、ううん。違うよ」


 ただ、見込みじゃなくてよかったと。ちゃんとした卒業証明書が渡せてよかったと。


「それから、なんか勘違いされた」

「「勘違い?」」

「うん。多分先生、ヒナタくんから何か聞いてたんだと思うんだけど……」


 ちょっとっていうのは、本当にちょっとで。本当に、トイレに抜けるくらいの時間でよかったんだけど。