すべての花へそして君へ③


 普通の高校生ならば、人生で何度かは卒業というものを経験したことがあるだろう。この、儀式に似たようなものが、一体どのような意味を成すのか。そして、自分にどのような感情が湧き上がってくるのか。

 ――受け入れるのなら、せめていろんなことをさせてやりたい。
 ただの高校生ではなく。ただの生徒会執行部ではなく。たとえ、体は大人でも。たとえ、いくら賢くても。心が真っ白な。まるで、赤ん坊のように、純粋な君に。

 ……敵? 味方? そんなものは関係ない。
 ここは学び舎。何かを学ぼうとしている者たちへ、門を閉ざすことは決してないのだから。


(彼女には今、一体この景色がどのように見えているのか)


 そして、そんな純粋な君は、私にどんな道を示してくれるのだろう。


『――Sクラス』


 彼女に与えた選択は、担任の彼が必死になって掴んできてくれたもの。誰よりも多いその可能性に、思わず苦笑いをこぼしながら二つに絞った。
 開いた時、君はどんな反応をしたのだろう。困らせただろうか。喜んでくれただろうか。悩ませてしまっただろうか。その時の反応を、リアルタイムで是非とも見てみたかったけれど。

 ただまあ、少し意地の悪いことをしてしまった自覚があるから、これでよかったことにしておこう。


『朝日向葵』

「――はい!」


 悪という悪をコテンパンに叩きのめし、この世界の平和を守る姿。国の……世界のトップの一員として、共に監視見守る姿。
 どちらも、君にとても似合い過ぎているだろう? どちらの姿も見てみたいと、そんな願望もないわけではないけれど。

 それでも、期待せずにはいられない。
 君なら、何かしてくれるのではないか――と。


『卒業証書。……朝日向葵殿』

「よろしくお願いします」

「はい。じゃあ少し読ませてもらうね」


 でもきっと、君なら選ぶだろう。選んだのだろう。


(えーっと、なになに……?)


 君にとっても。そして、まわりのたくさんの人々にとっても。あたたかくて、やさしくて、幸せな未来を――…………ん?