すべての花へそして君へ③


 そう言うと、彼はチャームポイントの八重歯をニッと出して、お得意の表情で嬉しそうに笑った。


「オレな、お前とアオイがくっついたのは、運命だったんじゃないかなって思うんだ」

「え。いきなり何……?」


 そんなことを恥ずかしげもなく言う彼は、笑ってはいるものの冗談を言っているわけではなさそうだった。


「昔一度会って、そしてまたこうして会って。何度も起こる偶然っていうのは、結局二人を未来まで繋げる運命なんじゃないかと」

「ポエマー……」

「まあ聞けって。だから、別に無理に連絡を取ろうとしなくていいんじゃねーのかなって思うわけよ」

「どうやったらそうなるの」

「お互いがお互いのこと考えてるなら、その機会はほっといても来るってことだよ」

「……考えてたら、いいけど」

「考えてないわけないだろ。そんな意味深な文章送ってくるぐらいには、お前とのことちゃんと話さないといけないって思ってるよ」

「……そう、かな」


 ……そうだと、いいな。
 そう思いながら見上げた夜空からは、真っ白な雪が降り始めていた。


「道理で寒いわけだよ」

「ま、ちゃんと何言いたいか考えとけよ。今度のクリスマスパーティーには来るらしいから」


 コンマ何秒の間で、彼が言った言葉の意味を理解することから、その理不尽に対する苛立ちの大量生産がオレの中で行われるのは、あまりにも容易なことだった。


「……何でそんなことチカが知ってるの」

「り、理事長から訊いた」

「なんで理事長はそんなこと知ってるの。そもそも、なんでチカは訊ける立場なの」

「オレとアオイが、パーティーの担当一緒だったから」


「マジ一人でやるのは大変だなー。ハハハー……」と笑いながら後退り始めるということは、他にも何か疚しいことをこいつは隠している。

 オレは、一気に距離を詰めた。


「じゃあ何。もしかしてチカはあいつとやりとりしてるわけ。彼氏のオレに内緒でこそこそと」

「馬鹿野郎。してたらさっさとオレと縒り戻してるわ」

「お前と戻る縒りなんてねえよ」

「おいおい、マジ切れすんなって! 冗談だろ!?」


 そうして本気で逃げ始めたので、オレもその背中を超本気で追いかけた。絶対なんか隠してやがるこいつ。


「……あ」

「は? どうしたんだよ」

「今いいこと思いついた」

「絶対するな! つーか来るなあ!!」


“もしかして、ちょっと身長伸びてるんじゃない?”

 そう思ったことは、一生言わないことにした。
 小さくても、こいつの背中が大きいことは、ずっと前から、いやってほど知っていたから。