「……たださ、信じてるんだよ」
背中に、小さく声がかかる。振り返ると彼は、反対側のステージ袖を見つめていた。
「あんたには、幸せを掴み取るだけの力があるって」
「……ヒナタくん」
「実際にそうだったでしょ。オレの意見なんか丸無視で」
「もう、拗ねないでよ」
「だから、もう知ってる」
「え?」
「一体どうしたいのか。ちゃんと、自分の心に聞けば返ってくること」
「……」
「相談。してくれてありがとう。ま、あとは頑張れ」
「結局、みんなそうやって濁すんだから」
ふっと小さく笑みをこぼし、去り際に頭を撫でた彼の背中は、何故かすごく喜んでいるように見えた。喜んでるなら、まあいいんだけどさ。短い時間を割いてでも来た甲斐があるというものだ。
教室に戻る途中、アキラくんがぼそりとこぼす。
「純粋に、お前の未来に賭けてみたいんだろうな」
「賭けの時点で純粋じゃないと思うんだけど」
「でもその気持ちも、俺はちょっとわかる気がするよ」
「え?」
歩みを止めたアキラくんは小さく笑って、静かに廊下の窓の外へ視線を流した。
「ヒナタが言ってただろう。ただ信じてるだけなんだと」
「……」
「自分の胸に聞いてみろって」
「……うん」
――実はさ、わかってたんだ。
彼らが、信じてくれていることも。どうして、こんな選択肢を用意したのかも。なんとなく。
気付いてるんだ。わたしの中には、もう明確な【未来】が描かれていることも。
ただ、少しだけ気がかりなのは、選ぶことで誰かの努力を無しにしてしまうかもしれないということ。
「先生たちはただ、お前の可能性を探してきただけだから。お前はただ、自分に自信を持てばいい」
「……うん」
でも、そうだよね。それで自分の道を間違えたら本末転倒だ。それは、誰も望んでいることじゃないよね。
「紙とペンが要りそうだな」
「あはっ。……うん!」
みんなに背中を押してもらえたわたしの足は、もう勝手に動いていた。
「よーし。んじゃあ、二人いないけどそろそろ行くぞー」
「いやいや菊ちゃん。はっきり言ってあの二人いなかったら式そもそもが始まんない」
――ばびゅんっ!
「……あれ? ねえつばさクン今なんか通った? それとも春嵐?」
「いや、多分あれ」
「あれ……って、アオイちゃん? いつの前に帰ってきたんだろう」
「……たく。おーい朝日向、おいてくぞー」
「菊悪い。あと少し待ってくれないか」
「アキラか。後少しっつったってな、もうギリギリまで待っ」
「――出来た!」
「あ、もう待たなくていい」
「ほいよー」
封筒を、制服の内ポケットにそっと仕舞う。ぽんっと叩くと、ドキドキわくわくと胸が高鳴った。



