すべての花へそして君へ③


 大きいと、重いと、そう感じてしまうのはそのせいもあるんだろう。しかも、不確定の未来だ。それにも関わらず、理事長がここまでのことをわたしにしてくれる意味は――。


「……礼か」

「いやいやチカくん? お礼を言いたいのは寧ろわたしの方で」

「それとも謝罪ですか」

「……レンくん? 謝られるようなことは何もないと思うんだけど」

「そんなことないよ。だってみーくん、あーちゃんの本名知ってて黙ってたんでしょ?」

「いや、まあそうなんだけど」

「それか投資」

「……ヒナタくん。わたしは株か何かかい?」


 いつものノリについ時間を忘れてしまいそうになるが、今回ばかりは、本当に暢気にはしていられないのだ。ふざけてる場合ではな――


「葵。俺も日向の意見に賛同する」

「だから、ふざけてる場合じゃないんだって」

「ふざけてない。つまりは未来への投資だ」

「……未来への投資?」


 そう言ってアキラくんは、【後援】の書かれた封筒をわたしに返し――


「あんたは、自分の将来に対して欲がなさ過ぎるからね」

「え。寧ろ欲望だらけだと思うんだけど」

「ないよ。自分のは」

「……ヒナタくん?」


 そしてヒナタくんは【補助】の封筒を、ベシッとわたしに返してくる。
 二人は、この選択肢の意味を。意図を。理解しているかのような表情で、優しく笑っていた。


「――え? あ、はい! すぐ行きます!」


 ステージ奥から、先生の声がかかる。どうやら、もうすぐ本番らしい。…………え。本番?


「じゃあリハ通りに。オウリとユッキーは照明と音源。ヒナタは補助を頼むな。アキも、拙い送辞だけどよろしくな」

「両手両足がちゃんと出てるか、噛み噛みか、泣いてるか、ちゃんと確認しとく」

「それは勘弁して。あ、あとアオイ」

「は、はい」

「お前は、アキと一緒にさっさと教室に戻れ。卒業生はもう廊下に並んでんだぞ」

「みっ、みたいですね」


 バコッと頭をバインダーで叩いてきたチカくんは、ニカッと八重歯の可愛い笑顔で「じゃ、あとでな」と笑って奥へと消えた。


「あおいさんなら大丈夫です」

「あーちゃんの未来はあーちゃんのものだよ。どの未来でもきっと、楽しく笑ってると思う」


 レンくんは一礼をしてから、オウリくんは大きく手を振ってから、チカくんに続いた。


「じゃ、俺らも行こう。葵」

「……うん。そうだね」


 ほぼ、何も解決してない気がするけれど。仕方ない。ここは一つ、腹を決めよう。