大きいと、重いと、そう感じてしまうのはそのせいもあるんだろう。しかも、不確定の未来だ。それにも関わらず、理事長がここまでのことをわたしにしてくれる意味は――。
「……礼か」
「いやいやチカくん? お礼を言いたいのは寧ろわたしの方で」
「それとも謝罪ですか」
「……レンくん? 謝られるようなことは何もないと思うんだけど」
「そんなことないよ。だってみーくん、あーちゃんの本名知ってて黙ってたんでしょ?」
「いや、まあそうなんだけど」
「それか投資」
「……ヒナタくん。わたしは株か何かかい?」
いつものノリについ時間を忘れてしまいそうになるが、今回ばかりは、本当に暢気にはしていられないのだ。ふざけてる場合ではな――
「葵。俺も日向の意見に賛同する」
「だから、ふざけてる場合じゃないんだって」
「ふざけてない。つまりは未来への投資だ」
「……未来への投資?」
そう言ってアキラくんは、【後援】の書かれた封筒をわたしに返し――
「あんたは、自分の将来に対して欲がなさ過ぎるからね」
「え。寧ろ欲望だらけだと思うんだけど」
「ないよ。自分のは」
「……ヒナタくん?」
そしてヒナタくんは【補助】の封筒を、ベシッとわたしに返してくる。
二人は、この選択肢の意味を。意図を。理解しているかのような表情で、優しく笑っていた。
「――え? あ、はい! すぐ行きます!」
ステージ奥から、先生の声がかかる。どうやら、もうすぐ本番らしい。…………え。本番?
「じゃあリハ通りに。オウリとユッキーは照明と音源。ヒナタは補助を頼むな。アキも、拙い送辞だけどよろしくな」
「両手両足がちゃんと出てるか、噛み噛みか、泣いてるか、ちゃんと確認しとく」
「それは勘弁して。あ、あとアオイ」
「は、はい」
「お前は、アキと一緒にさっさと教室に戻れ。卒業生はもう廊下に並んでんだぞ」
「みっ、みたいですね」
バコッと頭をバインダーで叩いてきたチカくんは、ニカッと八重歯の可愛い笑顔で「じゃ、あとでな」と笑って奥へと消えた。
「あおいさんなら大丈夫です」
「あーちゃんの未来はあーちゃんのものだよ。どの未来でもきっと、楽しく笑ってると思う」
レンくんは一礼をしてから、オウリくんは大きく手を振ってから、チカくんに続いた。
「じゃ、俺らも行こう。葵」
「……うん。そうだね」
ほぼ、何も解決してない気がするけれど。仕方ない。ここは一つ、腹を決めよう。



