すべての花へそして君へ③


「――よし。照明に音響、他の機材も大丈夫そうだな。リハはこんなもんでいいだろ」


 チェック項目にペンを走らせている彼の横に、ささっと近付いていく人影、その1が呟く。


「後はちーちゃんが本番で、両手両足揃えて歩かなければよし」

「おいやめろ。言われたらやりそうな気がして怖え」


 顔を青くし始める彼の前で、腕組みをしながら頷く人影、その2も呟く。


「後は柊が、噛みに噛まなければ尚よし」

「さっきのリハ噛んでなかったぞ。そんなには」


 小さくこめかみに青筋を立てている彼の後ろで、膝カックンをする人影、その3がふざける。


「後はチカが、ビービー泣き始めたらオッケー」

「おいコラお前ら! オレで遊ぶな!!」


「折角緊張を和らげてあげようとしてたのにい」と三人口を揃えているところへ、物凄いスピードで足音が近付いてくる。
 なんだなんだ? と思っている間に、キキキキイィーッ!! とそれは急ブレーキで止まった。


「やあ!」

「やあじゃねえ」


「こんなところで何してるんだよ」と、何故か彼氏に襟元を掴まれ、挙げ句首を絞められるという。なんでだよー。ちょっとお茶目しただけなのにーっ。


「葵おはよう。どうかしたのか?」

「あ、アキラくん! おはよう!」


 後輩たちと一緒にリハーサルをしていたアキラくんが、ステージ横のカーテンから顔を出す。最後のお勤めだものね! 頑張れ!
「いやいやいや。暢気に朝の御挨拶してる場合じゃねえから」とチカくんは頭を抱えていたけれど。


「マジでこんなところで何してんだよアオイ。もうすぐ式はじまんぞ」

「いやーそうなんだけどね。流石にこればっかりは、式の後というわけにもいかずでして」


 みんなに、相談したいことがあるんだ。
 その一言だけで、何となく察したらしい彼らは、お互い顔を見合わせて小さく頷いた。


「「「………………」」」


 そんでもって、それを見た瞬間。三人の顔が固まった▼


「これは……なんというか、すごいな」

「いやいやアキラくん。すごいの一言で片付けないでおくれ」

「そうなんだろうが……その、なんというか。規模が違うと思って」

「き、規模」

「ああ。普通ならここまではしない」

「……そうなの?」

「通常は卒業後のワンステップまで。流石にいつまでもというわけにはいかない。一年後には、また次の卒業生がいるからな」

「……そう、だよね」