「――よし。照明に音響、他の機材も大丈夫そうだな。リハはこんなもんでいいだろ」
チェック項目にペンを走らせている彼の横に、ささっと近付いていく人影、その1が呟く。
「後はちーちゃんが本番で、両手両足揃えて歩かなければよし」
「おいやめろ。言われたらやりそうな気がして怖え」
顔を青くし始める彼の前で、腕組みをしながら頷く人影、その2も呟く。
「後は柊が、噛みに噛まなければ尚よし」
「さっきのリハ噛んでなかったぞ。そんなには」
小さくこめかみに青筋を立てている彼の後ろで、膝カックンをする人影、その3がふざける。
「後はチカが、ビービー泣き始めたらオッケー」
「おいコラお前ら! オレで遊ぶな!!」
「折角緊張を和らげてあげようとしてたのにい」と三人口を揃えているところへ、物凄いスピードで足音が近付いてくる。
なんだなんだ? と思っている間に、キキキキイィーッ!! とそれは急ブレーキで止まった。
「やあ!」
「やあじゃねえ」
「こんなところで何してるんだよ」と、何故か彼氏に襟元を掴まれ、挙げ句首を絞められるという。なんでだよー。ちょっとお茶目しただけなのにーっ。
「葵おはよう。どうかしたのか?」
「あ、アキラくん! おはよう!」
後輩たちと一緒にリハーサルをしていたアキラくんが、ステージ横のカーテンから顔を出す。最後のお勤めだものね! 頑張れ!
「いやいやいや。暢気に朝の御挨拶してる場合じゃねえから」とチカくんは頭を抱えていたけれど。
「マジでこんなところで何してんだよアオイ。もうすぐ式はじまんぞ」
「いやーそうなんだけどね。流石にこればっかりは、式の後というわけにもいかずでして」
みんなに、相談したいことがあるんだ。
その一言だけで、何となく察したらしい彼らは、お互い顔を見合わせて小さく頷いた。
「「「………………」」」
そんでもって、それを見た瞬間。三人の顔が固まった▼
「これは……なんというか、すごいな」
「いやいやアキラくん。すごいの一言で片付けないでおくれ」
「そうなんだろうが……その、なんというか。規模が違うと思って」
「き、規模」
「ああ。普通ならここまではしない」
「……そうなの?」
「通常は卒業後のワンステップまで。流石にいつまでもというわけにはいかない。一年後には、また次の卒業生がいるからな」
「……そう、だよね」



