【20XX.11.2X 3:30 P.M.】


 一応時計を確認してはみるが、先程から大して時間は経っていなかった。
 それもそのはずだ。暇潰しに教えた簡単な手品を、目の前の少年はまだ、これっぽっちも習得できていないのだから。


《そろそろオレは行くよ》


 ずっと彼に付き合っていては日が暮れる。この辺で見切りをつけて、さっさとこの場から立ち去ってしまおう。
 はじめから、ただの気紛れに過ぎなかったんだから。


《あ……》


 会計を済ませて立ち上がると、彼は驚いたように目を瞠った。
 けれど、雰囲気から感じ取ってくれたのか、我が儘を言うこともせがむこともなく。


〈……Bye-bye〉


 ただ《さようなら》と、小さな声を零すだけにとどめていた。
 寂しそうな顔の少年を見て、オレは一度、ゆっくりと目を閉じた。


『――バイバイ!』


 大きな声で重なる強烈な記憶。
 それが少し、落ち着いてくれるまで。


 ――――――…………
 ――――……