その後、半ば追い出されるように九条家を後にしたわたしたちだったけれど。
『また、いつでも来なさい』
『待ってるわ!』
ツバサくんに一度連れてきてもらった時にお二人にも心配をかけてしまったから、こうしてちゃんと会えて、話すことができて本当によかった。優しい笑顔に、何度も振り返って手を振った。
電車に揺られながら、彼にもたれかかる。
「眠くなったら寝てて大丈夫だから」
「ううん。そういうわけじゃないんだ」
彼の気遣う声にそう応えながら、わたしは瞼をゆっくりと下ろす。
生まれてからずっと、いろんなことがあって。ここ最近に至っては、息を吐く暇さえないほどのことが短期間で詰めに詰められすぎていて。正直、わたしでも目が回ることは何度もあった。
考えているだけで、瞼の裏に浮かび上がってくる出来事。……いろんなことがあった。いろんな人と出会った。たくさんの人との繋がりを、いっぱい感じた。
「ねえヒナタくん」
「ん?」
「帰る前に少し、寄りたいところがあるんだ」
「……寄りたいところ?」
「うん。いい?」
「もちろんいいよ」
だから、話しておこう。
君に隠していた、わたしの……最後の内緒事を。
――――――…………
――――……
波打つ海はとても静かで穏やかだった。けれど潮風はあまりにも冷たくて、あまり長居はできそうにない。
「……来たかったの?」
「うん。ちょっとね」
砂に足を僅かに取られながら、それでも波打ち際をゆっくりと歩いて行く。海にはあまり近付けたくはないのか。隣を歩く彼からは、心配そうに何度も視線を送られた。
「冬の海って冷たいね。夏はただ暑かったけど」
「……」
「あ。ごめんね? 感傷に浸るつもりはなかったんだ。どうしても、海を見ると思い出しちゃって」
「別に、浸っていいんじゃないの」
「え?」
「いつまでも気持ちを引き摺ってるわけじゃなし。それについてはモミジだって文句言ったりしないよ。寧ろ思い出してくれて喜んでそう」
「……そうかな」
「絶対そう」
そうだよね。だってここは、思い出の場所だもの。
「……そっか」
だったら、あなたにはもうバレちゃってるかも知れないね。それもそれで、なんだか悪くない気がするけど。
「ねえねえヒナタくん! ちょっとお願いがあるのだけど!」
「は? い、いきなり何?」
「スマホ! 貸してくんない?」
「……何する気」
「わ! 何かものすごい疑われてる!? 酷いよー。そんな変なことしないよー」
「存在自体が変な奴だけど」
それって彼女に言う台詞だろうか。
「ちょっと、見せたいもの……というか、聞かせたいものがあってね!」
「……オレのスマホの中に?」
「そう! 君のスマホの中に!」
「……」



