「葵お前、なんちゅう恰好して」
「聞かないでおくれツバサくん」
来たけどね。本気で嫌がったけど、本当に拒否権なかったヨ。
「ツバサだけ?」
「父さんは朝から接待ゴルフ。苛々しながら出てったから、あの様子だと昼過ぎには帰ってくるんじゃねえかな」
「母さんは――」そう話していると、奥の方から声が聞こえてくる。
「つばちゃーん。お客さん誰だったのー?」
「母さん。日向と葵」
「まあ!」
ぱたぱたと聞こえてくる足音に反応するように、爆発寸前までわたしの心臓がうるさくなる。落ち着け、落ち着くんだわたし。
「おかえりひなちゃん! いらっしゃいあおいちゃん!」
「ただいま母さん」
「こ、こんにちは。ワカバさん」
「……何今更緊張してんだよ」
「こ、こっちにはこっちでいろいろと事情があるのだよ……!」
胸に手を当て、今にも口から出てきそうな心臓さんを落ち着かせ、腹を決める。……やるっきゃない。
「あ、あのっ。ワカバさん」
「母さん昼ご飯は?」
「まだよ。もうすぐできるところ」
「じゃあ一緒に食べていい? こいつも」
「ええ勿論よ! いつまでいるの? 今日はずっと??」
「ずっとは無理かな。このあと花咲さんとこにも顔出しておきたいし」
「そう。……残念ね」
「ま、父さんが帰ってくるまではいるよ」
「うんうん! きっと喜ぶわ!」
なんかまた、思ってたのと違う展開なんですけど。
結局お昼をご馳走になってしまったけれど、ツバサくんはどうやら食欲がないらしく、少し口にしてからこめかみを押さえさっさと自分の部屋へと戻ってしまった。本人曰く、二日酔いならぬ三日酔いらしい。
ワカバさんの血を濃く受け継いだ国宝級の酒豪と謳われたあのツバサくんが、まさかこんなになってしまうとは。一体、どれだけ飲んだのか。
「ねえねえヒナタくん、一個聞いてもいい?」
その後、恋愛脳ワカバさんからの猛烈な質問攻撃を受けていたわたしたちは、救世主トウセイさんの帰還により難を逃れ。ひとまず、ハルナさんの部屋に待避することにした。
ひよこさんクッションを抱きながら尋ねる。
「何」
「わたしは、ちゃんとご挨拶しなくてよかったの?」
「……なんで?」
「だってさっき、朝日向にいた時は……」
「今更、する必要ないと思うんだけど」
「え」
「親公認の仲でしょ。すでに」
「……あ、そっか」
緊張しすぎて、いろいろ混乱してた。さっきは、うちの祖父にきちんと話をしておきたかったんだもんね。
(ご帰宅なさったトウセイさんには、『なんだそのふざけた恰好は』的な目で一瞬見られたような気がするけど)
冷たくてもいいんだ。スルーされるよりは全然マシなんだっ。



