「……彼方、そちらの子は」
「あ、すみません。ひなたくんは確か、初めましてだったね」
真っ直ぐ伸びた背筋に堂々とした立ち振る舞いは、正直まだまだ現役だと言われても誰も疑いはしないだろう。実質、社長の座を退いてもなお、未だ現役バリバリだった。
「会長、彼は九条冬青大臣のご子息で、名前を日向くん。ひなたくん、此方は朝日向の会長で、俺の父親だよ」
窓際に立っていた男性。年配……というにはまだまだ若すぎる彼は、わたしの祖父である。
紹介されたヒナタくんは、すっと佇まいを直し一歩前へ出る。
「初めまして朝日向会長。僕は――」
「そうか、君が」
きっと、緊張なんて一瞬で吹っ飛んでいっただろう。何せ、挨拶もままならないまま、初めましてのおじさんに抱きしめられてしまったのだから。案の定ヒナタくんは、何が起こったのかと固まっているし、目が点だ。
「ヒナタくんに、前以て教えておいてあげるとだね」
「……まえもってない」
「どうやら、ボディータッチが多いのは家系みたいなんだなあこれが」
「……なっとく」
だから、安心してくれていい。
確かに彼には、厳しい面があったかも知れない。そのせいで父は逃げ出したわけだし、それは本当。けれど今こうしてここに、父と母とそして祖父の三人が揃って笑顔でいられているのは、厳しい彼も本当はすごく根が優しいから。
「君がいなければ私は、孫の顔すら見られなかったかも知れない。葵を、来実さんを、バカ息子を、そして私を。救ってくれて有難う」
「……いえ。僕はやりたいようにやっただけなので」
素直に受け取れなかったけれど、それでも十分、ヒナタくんに祖父の思いは届いているし、祖父にも、ヒナタくんの気持ちは伝わっているんだろう。
「謙虚でよろしい」
「ど、どうも」
頭を撫でている祖父と撫でられているヒナタくんを見ていたら、すぐに打ち解けられたのがわかった。
「ところで葵。その恰好はどういうことだ」
「誤解ですおじいちゃん。これはヒナタくんに無理矢理着せられて」
「何? どういうことだね、日向くん」
「……一言で言うなれば」
「言うなれば、何だ」
「彼女の趣味です」
「だろうな」
「はい」
正直、そこまで打ち解けなくてもいいのにとは思った。



