すべての花へそして君へ③


 片手でわたしの声と動きまでもを封じた彼は、その後一言二言話をしてから電話を切った。


「ど、どういうことだねヒナタくん!」

「どういうことって、新年のご挨拶?」

「そうだねうん。そうだろうようん。でもこの恰好のままってことは勿論ないよね!?」

「何言ってんの。やっぱりバカなの」

「そ、そうだよね。流石のヒナタくんでもそこまでは」

「その恰好のままに決まってるじゃん」

「WHY!? 何故だい!?」

「寧ろ何でダメなの。それで世界中飛び回ってたんでしょ」

「仕事だったからだぜ!? 相手が子どもだったからだぜい!?」

「大丈夫大丈夫。今回も仕事みたいなもんでしょ」

「身内にこんな恰好を見せるのはちょっと勇気が出ないのだぜーいッ!?」

「身内は知らないところで、あんたにそんな恰好で世界中を飛び回られているんだけど」

「……!? それ、は……」

「挨拶する気になった?」


 そんな風に言われてしまっては、腹を括るしかあるまい。


「あ、因みに移動中の電車内は脱がなくていいから。知り合いだと思われたくないし」


 涼しげな顔してさらっと毒吐かないでっ。

 ヒナタくんの願い、もといわたしへの罰は、少年探偵の恰好で新年の挨拶回りをしろと。どうやらそういうことらしい。本当に罰じゃんっ。



「お待ちしておりました、九条様。そして葵様」


 ついに来てしもうた。


「ご無沙汰しています乾さん。その後のご様子は」

「ご心配戴き有難う御座います。兄の体調も随分よくなったみたいで」


 三箇日は仕事は休み。だから会社にいたのは彼女だけのようだったけれど。


「そうですか。それは本当によかった」

「外はさぞ寒かったでしょう。ごゆっくりなさってくださいね」

「ありがとうございます」

(何の反応がないのも心が痛い)


 簡単に挨拶を済ませてから、わたしの父の秘書、ミヤコさんはわたしたちを社のプライベートエリアへと通してくれた。
 そこは、従業員専用のエレベーターで、しかも限られた者しか入れないフロアの中の一室。


「……あ! お母さん。もう体調はいいの?」

「心配かけたわね。でも大丈夫。いつまでも寝てはいられないもの」


 そこにいたのは、わたしの母と。


「ねえひなたくん。最近飼い始めた犬ってまさか……」

「名犬ですよ、なかなかの」


 ヒナタくんにまんまと遊ばれた父。そして。