片手でわたしの声と動きまでもを封じた彼は、その後一言二言話をしてから電話を切った。
「ど、どういうことだねヒナタくん!」
「どういうことって、新年のご挨拶?」
「そうだねうん。そうだろうようん。でもこの恰好のままってことは勿論ないよね!?」
「何言ってんの。やっぱりバカなの」
「そ、そうだよね。流石のヒナタくんでもそこまでは」
「その恰好のままに決まってるじゃん」
「WHY!? 何故だい!?」
「寧ろ何でダメなの。それで世界中飛び回ってたんでしょ」
「仕事だったからだぜ!? 相手が子どもだったからだぜい!?」
「大丈夫大丈夫。今回も仕事みたいなもんでしょ」
「身内にこんな恰好を見せるのはちょっと勇気が出ないのだぜーいッ!?」
「身内は知らないところで、あんたにそんな恰好で世界中を飛び回られているんだけど」
「……!? それ、は……」
「挨拶する気になった?」
そんな風に言われてしまっては、腹を括るしかあるまい。
「あ、因みに移動中の電車内は脱がなくていいから。知り合いだと思われたくないし」
涼しげな顔してさらっと毒吐かないでっ。
ヒナタくんの願い、もといわたしへの罰は、少年探偵の恰好で新年の挨拶回りをしろと。どうやらそういうことらしい。本当に罰じゃんっ。
「お待ちしておりました、九条様。そして葵様」
ついに来てしもうた。
「ご無沙汰しています乾さん。その後のご様子は」
「ご心配戴き有難う御座います。兄の体調も随分よくなったみたいで」
三箇日は仕事は休み。だから会社にいたのは彼女だけのようだったけれど。
「そうですか。それは本当によかった」
「外はさぞ寒かったでしょう。ごゆっくりなさってくださいね」
「ありがとうございます」
(何の反応がないのも心が痛い)
簡単に挨拶を済ませてから、わたしの父の秘書、ミヤコさんはわたしたちを社のプライベートエリアへと通してくれた。
そこは、従業員専用のエレベーターで、しかも限られた者しか入れないフロアの中の一室。
「……あ! お母さん。もう体調はいいの?」
「心配かけたわね。でも大丈夫。いつまでも寝てはいられないもの」
そこにいたのは、わたしの母と。
「ねえひなたくん。最近飼い始めた犬ってまさか……」
「名犬ですよ、なかなかの」
ヒナタくんにまんまと遊ばれた父。そして。



