すべての花へそして君へ③

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「それじゃあマザー、また!」

「短い間でしたがお世話になりました。また来ます」

「ふふっ。此方こそ、楽しい時間をありがとう。いつでもいらっしゃいね」

「あお! ひな兄ちゃん! 今度は俺が会いに行くねー!」

「「ばいばいシスター!」」

「「またね! お兄ちゃん!」」


 外は寒い。それでも彼らは、わたしたちの姿が見えなくなるまでずっと手を振っていてくれた。


「ねえヒナタくん」

「ん?」


 ここに来る前と後では、いろんなことが変わったね。
 お互いが、どんな思いでいたのか。お互いがどんなことをしていたのか。ちゃんと知られたから、変わった。気持ちも。表情も。わたしたちの、綻びかけた関係も。


「あのー……ですね? これは、いつまでし続けなければいけないのでしょう」


 ズルリとズレ落ちてくる大きな眼鏡をかけ直しながら、前が開かないようしっかりとコートを羽織る。


「寒い?」

「そりゃ寒いよ!? 中はカッターシャツにショートパンツ、あと蝶ネクタイ付けてるだけだからね!?」


 せめてサスペンダーが出来上がっていれば……! って、絶対関係ないか。


「子どもたち喜んでたね。少女探偵だって」

「あーなんで選りに選って、仕事着をここに置いていたんだわたしー!」

「マザーもテンション上がって、インスタントカメラ引っ張り出してたし」

「わたしはいつになったらこの服を脱げるのだろうか」

「んー取り敢えず、建物の中に入ったらコート脱ごっか」

「……!?!?」


 ひとまず、ものすごくお怒りだってことはよくわかった。
 でも、こうしてやっぱりバカできるのは、わたしたちらしいなとも思う。帰ってきたなって、そう感じる。


「それから次はね」

「まだするの!?」

「誰も一つだなんて言ってないけど」

「た、確かにそうですけど」


 何だろう、この久し振りな下僕感。悪魔だ。やっぱり悪魔だこの人。


「……こっから一番近いのは朝日向か」

「エ」


 ちょ、ちょっと待って。今、とっても嫌な予感がしたんですけども。


「……あ、もしもしカナタさん?」

「ぬああああ!?!?」

「奇声? ああ多分最近飼い始めた犬だと思います。今ちょうど近くにいるので」

「ちょ、待っ、んんんー!」

「蝶ネクタイ付けてて主の言うことよく聞くいい子なんですよ。よかったら今から会いに行ってもかまいません?」

(やっぱりぃいいーッ!)