すべての花へそして君へ③


 オレだって、ばあちゃんと別に離れたいわけじゃない。お茶がしたかったのだって、それが理由だ。
 オレは、オレが大切なものとずっと一緒にいたい。そばにいたい。それは、最初から。そして今も、これからも変わらない。


「ひとまず、調理師免許とか取っとこうかと思うんだよ。あと経営学? 勉強する」

「……チカゼ」

「オレさ、人が好きなんだよ。二人っきりも悪くないけど、いろんな人と話すんのも悪くねえだろ?」

「……あんたって子は」

「悪いけど、ばあちゃんにもばっちり手伝ってもらうからな」

「これは、心配せんでもよさそうや」

「……おい。何の心配してんだよ」

「そりゃ勿論、あんたのお嫁さんやろ」

「なっ!?」

「アオイさん連れてくるんかー思や、ヒナ坊にあっさり取られとるし」

「!?!?」

「背中は押すわ、喜ぶわ、かと思や未練たらたらで。ほんま世話ないわ」

「待て待て待て。頼むからもうこれ以上傷口抉るのは」

「ほんま。優しいええ子に育った」


 カランと、コップの氷が揺れる。酒の入っていた瓶は、もうだいぶ空いていた。
 いつの間に食べたのか、予備の桜餅ももう空だった。


「ばあちゃん……」

純玲(スミレ)桐矢(トウヤ)さんも、きっと喜んどる。笑っとる。どや顔で当たり前だの何だの言っとる。絶対にの」


 二人きりで。両親の話題が出てきたのはいつ振りだろうか。
 でも今は、二人の名前を聞いても、優しい気持ちになれる。あと、祖母はもう結構酔っている。


「あー老後が楽しみやなー」

「布団敷いてくるから、まだ寝んなよ」

「チカゼ」

「なんだよ」

「ありがとうな」

「……」


 完全に落ちたな、こりゃ。


「人生まだまだこれからだぜ、ばあちゃん。精一杯、長生きしろよな」


 朝日は、もうだいぶ高く上がっていた。