オレだって、ばあちゃんと別に離れたいわけじゃない。お茶がしたかったのだって、それが理由だ。
オレは、オレが大切なものとずっと一緒にいたい。そばにいたい。それは、最初から。そして今も、これからも変わらない。
「ひとまず、調理師免許とか取っとこうかと思うんだよ。あと経営学? 勉強する」
「……チカゼ」
「オレさ、人が好きなんだよ。二人っきりも悪くないけど、いろんな人と話すんのも悪くねえだろ?」
「……あんたって子は」
「悪いけど、ばあちゃんにもばっちり手伝ってもらうからな」
「これは、心配せんでもよさそうや」
「……おい。何の心配してんだよ」
「そりゃ勿論、あんたのお嫁さんやろ」
「なっ!?」
「アオイさん連れてくるんかー思や、ヒナ坊にあっさり取られとるし」
「!?!?」
「背中は押すわ、喜ぶわ、かと思や未練たらたらで。ほんま世話ないわ」
「待て待て待て。頼むからもうこれ以上傷口抉るのは」
「ほんま。優しいええ子に育った」
カランと、コップの氷が揺れる。酒の入っていた瓶は、もうだいぶ空いていた。
いつの間に食べたのか、予備の桜餅ももう空だった。
「ばあちゃん……」
「純玲も桐矢さんも、きっと喜んどる。笑っとる。どや顔で当たり前だの何だの言っとる。絶対にの」
二人きりで。両親の話題が出てきたのはいつ振りだろうか。
でも今は、二人の名前を聞いても、優しい気持ちになれる。あと、祖母はもう結構酔っている。
「あー老後が楽しみやなー」
「布団敷いてくるから、まだ寝んなよ」
「チカゼ」
「なんだよ」
「ありがとうな」
「……」
完全に落ちたな、こりゃ。
「人生まだまだこれからだぜ、ばあちゃん。精一杯、長生きしろよな」
朝日は、もうだいぶ高く上がっていた。



