すべての花へそして君へ③


 痛いところを突かれてしまったが、返す言葉は勿論オレの引き出しにはなく。
 ガシガシと頭をかいてギブアップ。聞きたかった話へ、話題をそらした。


「友達と旅行っていうのは」

「嘘や」

「なんで嘘吐いた。それを知らないままババアになんかあったら、オレが何も思わないと?」

「言いたくなかったんや」

「子どもか」

「言うたら、なんで行くんかって聞くやろ」

「は? まあな」

「完璧に縁切りに行く言うたら止めるやろ」


 言葉が、出てこなかった。
 もう自棄酒が回っているのか。……本気で、言ってるのか。


「……お茶を奪うんかって、怒るやろ」


 本気で、言ってんだな。このくそババア。
 酒に逃げようと、空になったコップに注ごうとする手をそっと止め、オレは怒った。


「言うわけねえだろくそババア」


 電話で話をした、あの日から。考えてないとでも思ったのかよ。



「なあ、ばあちゃん。アキの当面の目標知ってるか。兄貴の嫁探しだぞ」


 そしてその兄と、共に勉強しお互い切磋琢磨して皇を正していく。それが、彼の……いや彼らの大きな目標だろう。


「アカネとオウリ。それからキサとユッキーは、自分たちのしたいことを貫くんだと」


 アカネは美大。オウリは医大。キサとユッキーは美容の専門学校。トーマは引き続き弁護士として、道を外れず勉学に励むとか何とか。何をどう外れかけたのか、聞くのはちょっと怖くて憚れたけど。


「……何が言いたいんや」

「オレたちはもう、何も考えられない子どもじゃねえってこと」


 カナは、教師になるために覚悟を決めた。その覚悟のために、何を選び何を捨てたのか。そして彼らがどう応えるのか。それももう、何となくだけどわかる。
 結局宅飲みには来なかったツバサも、みんなから出遅れているとわかっていても、焦った様子は微塵もない。しかも弟のために奮闘さえしてやがる。ま、自分の中に答えがあるのは間違いないんだろう。

 アオイも、ヒナタも。今回のこじれは、このことについてなんだろうし。今頃は一人で完結させず、二人でちゃんと話して二人で決めてることだろうよ。一安心一安心。


「なあばあちゃん。オレさ、さっきまで宴会の後片付けしてたんだけどさ」

「……なんや、ゴミ収集車にでもなるんか」

「車にはなれねえよ流石に」

「はあ? ちょっと前まで、消防車だのパトカーだの、何とかレンジャーになりたいだの言うとったのに」


 いつの話してんだ、いつの。まあ泣き虫だった分、強いものに憧れたのは本当だけど。


「誰かが安らげる、くつろげる所があるといいなって。そんな場所が近くにあったらいいなって」

「……」

「それにさ、将来この家、駆け込み寺になるらしいんだ。困ったもんだろ?」

「あんたは……」

「ん?」

「……あんたは、何がしたいんや」