痛いところを突かれてしまったが、返す言葉は勿論オレの引き出しにはなく。
ガシガシと頭をかいてギブアップ。聞きたかった話へ、話題をそらした。
「友達と旅行っていうのは」
「嘘や」
「なんで嘘吐いた。それを知らないままババアになんかあったら、オレが何も思わないと?」
「言いたくなかったんや」
「子どもか」
「言うたら、なんで行くんかって聞くやろ」
「は? まあな」
「完璧に縁切りに行く言うたら止めるやろ」
言葉が、出てこなかった。
もう自棄酒が回っているのか。……本気で、言ってるのか。
「……お茶を奪うんかって、怒るやろ」
本気で、言ってんだな。このくそババア。
酒に逃げようと、空になったコップに注ごうとする手をそっと止め、オレは怒った。
「言うわけねえだろくそババア」
電話で話をした、あの日から。考えてないとでも思ったのかよ。
「なあ、ばあちゃん。アキの当面の目標知ってるか。兄貴の嫁探しだぞ」
そしてその兄と、共に勉強しお互い切磋琢磨して皇を正していく。それが、彼の……いや彼らの大きな目標だろう。
「アカネとオウリ。それからキサとユッキーは、自分たちのしたいことを貫くんだと」
アカネは美大。オウリは医大。キサとユッキーは美容の専門学校。トーマは引き続き弁護士として、道を外れず勉学に励むとか何とか。何をどう外れかけたのか、聞くのはちょっと怖くて憚れたけど。
「……何が言いたいんや」
「オレたちはもう、何も考えられない子どもじゃねえってこと」
カナは、教師になるために覚悟を決めた。その覚悟のために、何を選び何を捨てたのか。そして彼らがどう応えるのか。それももう、何となくだけどわかる。
結局宅飲みには来なかったツバサも、みんなから出遅れているとわかっていても、焦った様子は微塵もない。しかも弟のために奮闘さえしてやがる。ま、自分の中に答えがあるのは間違いないんだろう。
アオイも、ヒナタも。今回のこじれは、このことについてなんだろうし。今頃は一人で完結させず、二人でちゃんと話して二人で決めてることだろうよ。一安心一安心。
「なあばあちゃん。オレさ、さっきまで宴会の後片付けしてたんだけどさ」
「……なんや、ゴミ収集車にでもなるんか」
「車にはなれねえよ流石に」
「はあ? ちょっと前まで、消防車だのパトカーだの、何とかレンジャーになりたいだの言うとったのに」
いつの話してんだ、いつの。まあ泣き虫だった分、強いものに憧れたのは本当だけど。
「誰かが安らげる、くつろげる所があるといいなって。そんな場所が近くにあったらいいなって」
「……」
「それにさ、将来この家、駆け込み寺になるらしいんだ。困ったもんだろ?」
「あんたは……」
「ん?」
「……あんたは、何がしたいんや」



