すべての花へそして君へ③

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 どんちゃん騒ぎの後片付けをしていると、玄関の戸がガラガラと音を立てた。出迎えに行くと、着物を着たその人は散らかっていた沢山の靴を綺麗に並べてくれていた。


「お帰り、ばあちゃん」

「偉い仰山お客さんが来とるようやけど」

「ああ、みんな呼んだんだ」

「……みんな?」

「ちょっとした、宴会? してて」

「……聞かんかったことにしとこ」


 片耳を塞いだ祖母は、オレの手に風呂敷包みを手渡してくる。これは? そう視線で聞いてみれば、土産、と一言。オレはてっきり、自分用の桜餅でも買ってきたものとばかり。ま、時期じゃねえか。
 にしてもばあちゃんから土産なんて、初めてもらったな。あ、そもそも旅行に出ることすらなかったか。オレがいるから。


「それで? 何処の温泉行ってきたんだよ」

「実家や」

「実家? って、おいババア。まさか」

「年末年始の挨拶してきただけやろ。何そがなことで慌てとんの」


 すたこらさっさとその場を立ち去ろうとする祖母の背中を、慌てて追いかける。悪いが、片付けは後回しだ。
 追いかけていった背中は、台所に着くなりシンク下や食器棚、床下や冷蔵庫を漁りに漁り。それらをテーブルの上にバアアッと広げはじめる。桜餅、まだそんなところに隠してたのかよ。

 そんな度数の高い酒と一緒に食べたって、殺菌なんかできねえぞ。また腹壊しても知らねえからなオレは。


「……付き合うか?」

「なんや、まだ飲み足りんのか」

「こっちもな、飲まなきゃやってられねえんだよ」

「……なんねえ。気が合うやないの」


 コップをカツンと合わせる。
 こんな風に、祖母と酒を酌み交わす日が来ようとは。否。まさかこんな早くに、一緒に酒を飲む日が来るとは。


「それで? あんたは何で宴会なんかしよったんや」

「……そりゃ、めでてえことがあったからだよ」

「めでたい顔には見えんがなあ。おめでたい顔はしとるが」

「上手いこと言ってんじゃねえよ」


 めでたいことは、本当にめでたいんだ。だってやっと、こじれにこじれた仲が、元に戻ったんだから。
 大丈夫だとは思っていたけど、一人は重症だし、もう一人はガチでキレてるっぽかったし。何だかんだで、みんな心配していたんだ。お前ら、何でそうなるんだよって。さっきまでどれだけみんなと愚痴ってたか。


(でも、喜ばしいことにも、オレはこうやって一人モヤモヤして酒とか飲んでる……)


 ということは、やっぱりまだ未練が残ってるんだろうな。祝いたい気持ちは、嘘じゃねえのに。


「あんたも早う可愛い子連れてきいや。ばあちゃんずっと待っとるのに」

「わかってて言ってんなババア……」