そういった節目とかきっかけなら、幸せって目に見えてわかりやすいんだけど……って。あれ? ちょっと、ちょっとヒナタくん? 何故君そこで頭を抱える……。
「……うん、わかった。それで?」
「納得したの?」
「わりと無理矢理」
「……」
うん、止まってたら進まない。さっさと結論を言おう。
「わたしに、君の【願い】を叶えさせて欲しいんだ」
「…………………………は?」
「い、いや。だから、わたしに、君の願いを」
「なんで」
「それは、あの時も言ったけど」
「幸せにしてやるって? 悪いけどいらない」
「えー!? なんでえー!」
「なんでかって言うと、今のあおいさんの中には少なからずオレへの罪悪感があるから」
「そんなこと、……んっ」
おでこに一つ、口付けが降る。これ以上喋るなと、そういうことだろう。わかっているからと。
「……そんなこと」
「こーら」
「あるのかなあ……」
「あるんじゃないかなと思ってるけど、オレは」
ヒナタくんはそう言うけれど、自分の中では無意識なのか、あまりピンとは来なかった。
「なんて言うか、尽くし足りないというか」
「そりゃ彼氏ほっといたからじゃん」
「あ、罪悪感じゃなくて感謝かな?」
「ちょっと。無視すんな」
そうこうしていると、廊下の方で小さな足音がぱたぱたと聞こえ始める。話はここまでかな。
「さてと。そろそろ朝ご飯の支度を」
「行かすか」
「ぐえっ! だ、だからって首絞めなくても」
「中途半端で話切り上げやがって」
「うん、だから代案を考えてくるよ」
「考えんでいい」
「ええー……」
「まだ言うか」
そう言うヒナタくんだったけれど、やっぱり表情はいつもよりうんと柔らかくて。後ろから、ぎゅっと優しく抱きしめられる。
「でも、そんな風に言ってくれて嬉しかったよ」
「……ひなたくん」
「し足りない気持ちもわかる。それはオレだってそうだから」
「……うん」
……だからさ。
そんな小さな呟きと一緒に、抱きしめた腕が強くなる。
「そういうのは、また喧嘩した時に取っておこう」
「また喧嘩するの?」
「それで、またグーチョキパーしよう」
「え? ……ふふっ」
「だから。オレだけじゃなくて、あおいの願いも叶えさせて」
「……ヒナタくん」
でも、そういうのって悪くないね。
「幸せは、二人の願いを叶えればいいんだよ。そしたら、オレが幸せになったらあおいも幸せ。ね? 名案」
「……あはっ。うん!」
「んじゃあオレの願い事だけど」
「ちょっと待って? 今の話によると、叶えなくてよいのでは?」
「あれ、そう。叶えたくないんだー」
「い、いやそういうわけではなく」
「下らないこと言った罰。自覚あるでしょ?」
「……し、して。その願い……いや、罰とは何ざんしょう?」
な、なんだかんだで今までも、そんな酷いことはお願いされていないから、今回もきっと優しい罰だと思うのだけれど……。
「さあて。どうしてやろうか」
あ、なんかちょっと怖い。



