慌てて隠そうとするけれど、それを阻止するように彼の手が伸びてくる。


「み、見ないで」

「いやだ」

「なんで意地悪するの」

「可愛いあおいが見たいから」


 そう言って覗き込んでくる楽しそうな笑顔に、抵抗の意欲が削がれてしまった。


「なんか久し振りじゃない? 真っ赤になるの」

「……」

「なんで? 真っ赤になる要素あった今?」

「……わ、わかんない」


 ただ、好きだなあって。本当にそれだけを、思ってた。


「だったら、愛ちょうだい」

「……へ?」

「くれないの? 顔を見る限りあげたくて仕方がないのかと」

「い、今……?」

「ううん。いつでもいいよ」

「……わかってて言ってるでしょ」

「まあ、そうだね」

「……」


 意地悪な誘導とわかっていても、それに抵抗する方法はない。まあそもそも、抵抗する意志もないのだけれど。ちょっとした、羞恥心があるくらいで。


「早くしないと、誰か起きてくるかもね」

「わ、わかってるってば」

「目は閉じる?」

「……お願いします」


 ハイハイと、気持ちに余裕のあるお方はそんな風に軽く返事をして、さっさと目を閉じていい子で待っていらっしゃる。いつ見ても綺麗な顔しやがって全く……。
 頬に触れると、まつげが僅かに揺れる。こうして見ていると、確かにいつ見てもかっこいいなあって思うけど。
 やっぱり、前よりもずっとずっと、かっこよくなってると思う。


「ヒナタくん」

「ん?」

「好きだよ。大好き」

「……ん。オレも」


 伝わる熱。珈琲の苦み。僅かに香る、お日様のにおい。
 顔を見るのが何故か無性に恥ずかしくて、そのまま彼の腕に隠れるように抱き付いた。


「あおい」

「……前に、ヒナタくんを幸せにするって言ったでしょう?」

「ん? うん、それがどうかした?」

「たとえばさ、付き合うこと。結婚すること。それから子どもができること。そういうのも、一つの幸せじゃない?」

「……そうですね?」

「でもですよ。それがゴールではないわけさ」

「……ん??」

「だって、ジジババになっても一緒に笑い皺作ろうねって」

「あーうん。そうだったね」

「何が言いたいかって言うと、幸せって具体的にするのは物凄く難しいことなんだよ!」