「ねえ」
「ん?」
「フジばあ、元気?」
「おう。相変わらずピンピンしてるぞ」
「ふーん」
「なんだ? どうしたんだよ」
駅からの帰り道。大人に近付いたチカに慣れてきたオレは、少し躊躇いながら話を振った。
けれど、返ってきた返事にどう答えようか迷う。どうせ訊いたところで、はぐらかされるに決まっているからだ。
『石や~きいも。おいもっ』
「「…………」」
『美味しい美味しい、石焼き芋はいかがですか。ほっぺが落ちても知らなーいよっ』
「……なあ」
「うん」
「今日、寒くね?」
「超寒い」
その時ちょうど、結構な速さで通り過ぎていった焼き芋屋さんを、オレたちは必死になって追いかけた。
まるで、子供の頃に戻ったみたいだと。可笑しそうに笑いながら走るチカに、さっきまで悩んでいたのが、いつの間にか嘘みたいにどこかへ消えた。
「大方ばばあになんかあったか、なんか話したんだと思ったんだろ」
「アチッ」
「最近わかりやすいなーお前」
「……それくらいには、余裕はない」
「そうだろうよ」
ハハッと笑った彼は、美味しそうに焼き芋を頬張った。
それに倣ってオレも頬張ると、熱かったけどそれ以上に甘くて温かくて。……美味しかった。
「ま、今はオレよりお前だろ。せいぜい会ったとき何を話すのか、それくらいは考えとけよ」
「フジばあと、何かあった?」
「……いや、だから今はお前の話を」
「じゃあ、何があったの」
「…………」
「いきなり大人びるから、少なからず反応に困ってる」
「なんだそりゃ」
「ああ、だからさっきまで静かだったんだな」と。妙に納得した様子で、彼は焼き芋を口に運びながら頷いていた。
「(まあ、あのことは来年の春にわかるからいいとして……)」
「……? なんか言った?」
「さっき余裕がないっつってたろ? だから、今のヒナタは周りの様子に割けるほど気持ちが追いついてねーんだよ」
「チカはあるっていうの」
「ま、お前よりはあるわな」
「……そんなの」
じゃあどうすればいいんだと。言いかけたそれは、隣から上がった笑い声に掻き消された。
……今のどこに笑う要素があった。
「ガキ」
「……! チカに言われたくはない」
「今頃やってきたか。こりゃアオイが大変だな」
「は? ……何で今、あいつの話に」
「(……ま。あいつも、もしかしたらお前と一緒かもしれねーけど)」
「ねえ。黙ってないで何とか言ってよ」
頭の上に大量に生まれた疑問と文句に、チカは見ただけでため息をついた。
これだから、早くから大人びてた奴は……と。



