すべての花へそして君へ③


「ねえ」

「ん?」

「フジばあ、元気?」

「おう。相変わらずピンピンしてるぞ」

「ふーん」

「なんだ? どうしたんだよ」


 駅からの帰り道。大人に近付いたチカに慣れてきたオレは、少し躊躇いながら話を振った。
 けれど、返ってきた返事にどう答えようか迷う。どうせ訊いたところで、はぐらかされるに決まっているからだ。


『石や~きいも。おいもっ』

「「…………」」

『美味しい美味しい、石焼き芋はいかがですか。ほっぺが落ちても知らなーいよっ』

「……なあ」

「うん」

「今日、寒くね?」

「超寒い」


 その時ちょうど、結構な速さで通り過ぎていった焼き芋屋さんを、オレたちは必死になって追いかけた。
 まるで、子供の頃に戻ったみたいだと。可笑しそうに笑いながら走るチカに、さっきまで悩んでいたのが、いつの間にか嘘みたいにどこかへ消えた。


「大方ばばあになんかあったか、なんか話したんだと思ったんだろ」

「アチッ」

「最近わかりやすいなーお前」

「……それくらいには、余裕はない」

「そうだろうよ」


 ハハッと笑った彼は、美味しそうに焼き芋を頬張った。
 それに倣ってオレも頬張ると、熱かったけどそれ以上に甘くて温かくて。……美味しかった。


「ま、今はオレよりお前だろ。せいぜい会ったとき何を話すのか、それくらいは考えとけよ」

「フジばあと、何かあった?」

「……いや、だから今はお前の話を」

「じゃあ、何があったの」

「…………」

「いきなり大人びるから、少なからず反応に困ってる」

「なんだそりゃ」


「ああ、だからさっきまで静かだったんだな」と。妙に納得した様子で、彼は焼き芋を口に運びながら頷いていた。


「(まあ、あのことは来年の春にわかるからいいとして……)」

「……? なんか言った?」

「さっき余裕がないっつってたろ? だから、今のヒナタは周りの様子に割けるほど気持ちが追いついてねーんだよ」

「チカはあるっていうの」

「ま、お前よりはあるわな」

「……そんなの」


 じゃあどうすればいいんだと。言いかけたそれは、隣から上がった笑い声に掻き消された。
 ……今のどこに笑う要素があった。


「ガキ」

「……! チカに言われたくはない」

「今頃やってきたか。こりゃアオイが大変だな」

「は? ……何で今、あいつの話に」

「(……ま。あいつも、もしかしたらお前と一緒かもしれねーけど)」

「ねえ。黙ってないで何とか言ってよ」


 頭の上に大量に生まれた疑問と文句に、チカは見ただけでため息をついた。
 これだから、早くから大人びてた奴は……と。