拗ねる彼に思わず笑っていると、彼も僅かに頬を緩ませる。
「この日からなんだよね、嫌な夢見始めたの」
けれど、それも束の間彼は視線を落とす。その落ちた視線の先に、熱々の熱いコーヒーをそっと置いた。
「でも、それももうなくなった」
「……」
「違う?」
「……ん。違わない」
それでも、わたしは笑っていられる。誤解はもう、解けたのだから。
「……ねえヒナタくん?」
彼女――マザーが、彼に何を全て話したのか。
「ん?」
「彼女に、隠し事はよくないのでは?」
「そっくりそのままお返ししましょう」
けれど、彼女曰くそのことは内緒らしい。彼も、そのことについては教えてくれないんだってー。残念。
「でも、あおいが知りたいって言うならオレは」
「ヒナタくん。君に一つ助言をしよう」
「は? 何」
「女性との約束を破るのはよくないぞ?」
「…………」
「おや。何か言いたそうな顔ですな?」
「(男との約束を破るのはいいのか)はあ……」
「ちょっと、何故そこで溜め息吐くかな」
だから、まあそんな話をマザーから聞いて。そんでもってヒナタくんにお誘いを受けて。
会ったらまず、何の話をしようか。話題を避けようと思っても、遠回しに聞かれているような気がしてならないわけで。とっても気になっちゃうわけで。
「ふふっ」
「あおい?」
「あ、ごめんね? ちょっと、安心して」
「……」
でもそんなに気を張らずに話そうと思えるのは、きっと、優しい手がわたしの背中を押してくれているからだ。
「未解決の事件。その結末の数々、聞きたくない?」
君がわたしを、信じてくれているからだ。



