「いろいろと、御利益ありそうじゃない?」そう言いながら、彼は持っていた財布から、わたしの写真を見せてくれた。
 それは、あの時。体育祭の終わりに撮ってもらった、二人が浴衣で写っている写真だった。


「たとえば、学業成就とか」

「ふふっ。なんだか素敵だね」

「筋力増強とか?」

「それならわたしも、ミズカさんの写真入れてみようかなー」

「金運アップ?」

「そもそも君に必要かどうか」

「必要なのは恋愛運かな?」

「それについては……」


 最初から、落ちてはないと思うのだけれど。
 ぼそり。そう呟くと、小さく名前を呼ばれる。落としていた視線を上げると、彼がやさしく微笑んでいた。


「コーヒー」

「……え?」

「ない?」

「……ある、けど」


 でも、こんな時間にそんなもの飲んで大丈夫なのかな。


「もうちょっと、余韻に浸ってたいなって」

「……ひなたくん」

「いや違うか。片時も離れたくない彼女と、今はもう少し喋ってたいなって」

「ははっ。……うん、わたしも」


 準備をし始めると、目の前から熱い視線が注がれた。


「どうかした?」

「いや、引かないのかなって」

「何を?」

「写真とか持ってること」

「彼氏だからいいのでは?」

「でも内緒だったし」

「それが特権でしょう? わたしだって持ってるし」

「え。オレの写真?」


 わたしは全然気にしないけど、ヒナタくんはそうじゃないみたいだし。わたしも、黙っていたし。


「……」

「上手く撮れてるでしょ。自信作だぜ。キラリン」

「いつ撮ったの」

「ん? 恋人になった日の朝」

「……」

「ほっぺに行ってきますのちゅーしちゃった。きゃっ」

「それは起こして」

「だってこれ見てよ。気持ちよさそうに寝てるでしょ? 起こせないよ」

「次からは起こして」

「……ははっ。承知致しました」