ふと顔を上げると、やはりまだ拗ねているのか、口は尖っていた。ついでに、そっぽまで向いている。


「オレがあいつにそんなことをしたのは、あんたのためだよ」

「わたし?」

「あんたが、…………」


 そこで一度口を噤んだ彼は、溜め息を吐いて頬杖を突くように口元を押さえた。


「……あんな、別れ方するから」

「……」

「頭ん中は、そればっかり」

「……」

「それ以外、正直何も考えてなかったんだよ」

「そうだとしてもね?」

「ん?」

「そうだとしても、あの子にとってはそれがすべてだったんだ」


 だから少年は、君を捜した。君をずっと、追い続けた。


「あの子にとっては、君が道導なんだ。だから今、こうしてここにいる。君に、会いに来たんだよ」


 だからね? そんな頑張ったあの子に、少しでもご褒美をあげたかったの。


「あの子の相手。してくれてありがとう」

「……別に。話聞いてただけだし」


 まあ一つ。気になることがあるとすれば……。


「ねえヒナタくん」

「何」

「あの子に、わたしの写真を見せた?」

「……なんでそんなこと聞くの」

「あの子が言ってたの。わたしを見つけた時に」

「何て」

「財布の写真のお姉ちゃんだって」

「ぶはっ」


 何がそこまでおかしかったのか。さっきまで拗ねていた彼は、今では肩を震わせながら爆笑している。


「一人で楽しそうにしないでよー」

「いや、もうそこまで言われたら隠すも何も」

「じゃあ本当に? お財布にわたしの写真を入れてるの?」

「ん。まあね」