すべての花へそして君へ③


《とうとう捕まえたぞ、くそガキめ》

《おっ、俺は、何も盗んでなんか……!》

《じゃあ何で逃げたんだ! 疚しいことがあるんだろう!》

《怖い顔したおっさんが追いかけてきたら誰だって逃げるだろ!》


 あの時のあの子には、生きる術がなかった。何とか食いつなぐために覚えた手癖の悪さにも限界があって。


《あ。……すみません、間違えました》

《な、何? 間違えた、だって……?》

《……え?》

《その子じゃなくて、もっとがたいがいい感じの》

《がたいがいい……あんな感じか》

《そうそうあんな感じ……あ。逃げた》

《何!? そこのコソ泥! 待ちなさあーい!》



「ご飯。……ご馳走してあげたんでしょう?」



『――おおすげえ。さっきからこそこそしてるなあと思ってたけど、あの人マジだったんだ』

《……あ、あの》

《間違えたお詫びに何か奢るよ》

《えっ?》

『……あれ、通じてない? 仏語の授業いつも寝てるからなあ』

《怒って、ないの?》

《ん? そりゃ怒ってるよ。それ無いとオレ、死ぬほど困るし》

《ご、ごめんなさい》

《でも子どもがしたことだし。悪いことを悪いってちゃんとわかってるんでしょ》

《……》

『ていうかそもそも、こんな世の中にした奴が悪いよね。そのせいでオレ、あいつにほっとかれてるんだし……』

《??》



「それから手品も。教えてくれたってあの子、すごい喜んでたよ」



《どうせならさ、正攻法で攻めてみれば?》

《正攻法?》

《そそ。その手癖の悪さを存分に使ってみるとか》

《??》


 悪いことばかりに手を染めていた、そんな自分を、彼が救ってくれたのだと。
 そんな君の、優しさが見られたから。だから、こんなにも嬉しいのだ。


「美化してもらってるところ悪いんだけど」

「ん?」

「オレは、あいつを助けたくてそんなことしたわけじゃないよ」

「……ん?」