《とうとう捕まえたぞ、くそガキめ》
《おっ、俺は、何も盗んでなんか……!》
《じゃあ何で逃げたんだ! 疚しいことがあるんだろう!》
《怖い顔したおっさんが追いかけてきたら誰だって逃げるだろ!》
あの時のあの子には、生きる術がなかった。何とか食いつなぐために覚えた手癖の悪さにも限界があって。
《あ。……すみません、間違えました》
《な、何? 間違えた、だって……?》
《……え?》
《その子じゃなくて、もっとがたいがいい感じの》
《がたいがいい……あんな感じか》
《そうそうあんな感じ……あ。逃げた》
《何!? そこのコソ泥! 待ちなさあーい!》
「ご飯。……ご馳走してあげたんでしょう?」
『――おおすげえ。さっきからこそこそしてるなあと思ってたけど、あの人マジだったんだ』
《……あ、あの》
《間違えたお詫びに何か奢るよ》
《えっ?》
『……あれ、通じてない? 仏語の授業いつも寝てるからなあ』
《怒って、ないの?》
《ん? そりゃ怒ってるよ。それ無いとオレ、死ぬほど困るし》
《ご、ごめんなさい》
《でも子どもがしたことだし。悪いことを悪いってちゃんとわかってるんでしょ》
《……》
『ていうかそもそも、こんな世の中にした奴が悪いよね。そのせいでオレ、あいつにほっとかれてるんだし……』
《??》
「それから手品も。教えてくれたってあの子、すごい喜んでたよ」
《どうせならさ、正攻法で攻めてみれば?》
《正攻法?》
《そそ。その手癖の悪さを存分に使ってみるとか》
《??》
悪いことばかりに手を染めていた、そんな自分を、彼が救ってくれたのだと。
そんな君の、優しさが見られたから。だから、こんなにも嬉しいのだ。
「美化してもらってるところ悪いんだけど」
「ん?」
「オレは、あいつを助けたくてそんなことしたわけじゃないよ」
「……ん?」



