「……あれ。連絡が来てる」
あの後も、きっと少年に思う存分振り回されたのだろう。日付が変わってもヒナタくんとは会えず、連絡も来なかったので先に寝てしまおうかと旧台所から出ようとした時だ。一通の通知が来ていた。
《寝た?》
幸いにも、届いたのはつい数分前。わたしは慌てて返事を返す。
〈まだ起きてるよ〉
《どこいるの》
〈台所。ヒナタくんが知ってる方〉
《了解》
最後の通知が来てから数分後。僅かに音を立てて、台所の戸が開く。
「こんばんは、ヒナタくん」
「こんばんは。それで? オレに、言うことは何かわかったわけ」
「ん? 相手してくれてありがとう?」
「違う」
「じゃあ、お疲れ様だ」
「違うけど、それはちょっと受け取っとく」
――――――…………
――――……
「ふむふむ成る程? あの子にお財布を掏られて、それはそれは死に物狂いで追いかけた、と」
「違う、掏られそうになっただけだから」
「追いかけてる時点で完璧一回掏られてるよ」
「………………」
一体何が、彼をそこまで意固地にさせているのか。プライドか。男のプライドなのか。
でも、それは曲げてもらわないと。事実は曲げられないのです。
「お後が宜しいようで」
「よくねえ」
「冗談なのにい」
「オレのことはいいんだってば」
それにしても、無事だったからよかったものの、あのヒナタくんがお財布を掏られるだなんて。
よっぽどあの子の、手癖が悪かったのか。それとも何か、別のことで頭がいっぱいだったのか。
「ははっ」
「ちょっと、なんで笑うの」
でも、本当にヒナタくんだったとは。話を聞いて、まさかとは思っていたけれど。
「ただ嬉しかったんだ。ヒナタくんが優しい人だから」
「意味わかんない」
少し拗ね気味な彼にそう答えても、納得してはもらえなかったけれど。
《待てコソ泥め!》
――これは、あの少年から聞いた話だ。



