「あとは、ヒナタくんにこれまでのことを話すことができれば、一件落着と」
「何が一件落着だって」
ようやく探し人を見つけることができたかと思ったら、何やら少しご機嫌斜めのご様子。いや、ちょっと疲れてるのかな?
「やっほーヒナタくん。お風呂空いたから行っておいでよー。はい寝間着」
「その前に、オレに何か言うことは」
「え? ……あ! 今晩ここに泊まってもいい?」
「それはいいけど、その前」
「え?? ……あ。マザーがヒナタくんに『全部話しちゃった』って言ってたけど、全部って何を?」
「全部は全部。マザーが知ってること」
「なっ! なん――」
「けど、オレが今聞きたいのはそういうことじゃない」
「ちょっと。よくわかってないけど、驚くだけ驚かさせてよ」
「嫌だ」
ぐいぐい来るということは、これはかなりヒナタくん。何かに追い詰められているようだ。あと、心当たりがあるとすれば……。
「――あお!」
「うわっと!」
「こいつ。どういうこと」
そうそう、この子この子。
「あおあお! 見て! 聞いて! 本物のヒナタクジョー!」
「うんうん、よかったね。やっと見つかったねー」
「うん! あお、本当にありがとう!」
「わたしの方こそ、ありがとう。けど、わたしとの約束を破ったこと知ったら、本物のヒナタクジョウはどう思うかな?」
「もうっ。今度から約束は守るよ。でも、あおが大変じゃないの?」
「わたしのこと気にしてくれてたの?」
「気にしないわけないよ」
「ありがと。でも大丈夫。沢山は書けないかも知れないけど、必ずお返事するよ」
「……ん。わかったっ」嬉しそうに抱き付いてくる彼の頭をよしよしと撫でてあげていると、横からただならぬ空気が。
「ふむ。マザーの全部は、どうやら“全部”ではなかったらしい」
「一人で納得すんな」
「まあまあ。ひとまず二人とも、冷めないうちにお風呂行っておいで。んで、裸の付き合いしちゃいなよ」
「もうオレは話すことなんてない」
「うん! ひな兄ちゃんと行ってくる!」
「うんうん! 積もる話しちゃいなよ!」
「いやだから、オレはもう……!」
ズルズルと引き摺られていくヒナタくんに、手を振りながら目を細め、彼の姿が消える前に、さっさと瞼を下ろした。
“後でゆっくり聞かせてもらうからね”
悪魔の瞳が、そんな風に言っているように聞こえたから。
(後でゆっくりと言われてもねえ……)
わたしから、大した話をする必要はない。寧ろしてくれるのは彼――あの少年の方だし、聞きたいのはわたしの方だ。
「……まさか、ヒナタくんを追って来るなんてね」
はてさて。彼はわたしの知らない間に、花の都で出会った引ったくり少年に、一体どんな魔法をかけたのやら。



