『――チッ。どうやら馬鹿が余計なことをしたようだ』
『……ふむ、悪い状況になったってことはわかりました』
『悪いで済めばいいがな』
『済むんじゃないんですか? 多分。……きっと?』
けど、まあこの件に関しては、ある程度予測して動いていたわたしに無事、一任してもらえたし。
『君の言ったとおりだ。俺の立場もそう。家族もいる。妻と娘が二人。仕事は、君の監視と場合によっては暗殺の許可も出ている』
『……』
『……ねえ知ってる? 葵ちゃん。俺みたいな奴はね、中途半端に知られることが一番嫌いなんだ』
『……』
『でも、どうやら君には全部お見通しみたいだ』
『……』
『だからね、葵ちゃん。俺は』
『ストップ』
『……聞いてくれないの?』
『流石にそれは、言わせられません』
“だってあなたには、大事なものがあるのだから”
“わたしの隣は、もうあげられないから”
『だから、言います。シズルさん? もしあなたにその気がないのなら……』
――わたしの、お手伝いをしてみませんか?
『……本気で、言ってるの』
『選ぶのは、あなたですよ』
『俺の……立場を知っていて、君はそんなことを言うの』
『……シズルさん』
宥めるような声に、僅かに動揺でもしたのか。彼は、わたしの言葉をまるでその時初めて聞いた言葉のように、繰り返し呟いた。
『予め言っておきますが、わたしがあなたに強制することは報連相だけです』
『ほうれんそう』
『指示はします、ある程度。時間の拘束も長いでしょう。けれど命令はしません。あなた自身を、わたしは尊重します』
『……尊重』
『やることは多いですよ? でも、すごく遣り甲斐があります』
『遣り甲斐、か』
『……ねえシズルさん。今度はわたしと、一緒に誰かを見守りませんか?』
『見守る、ねえ……』
あれこれとボスには文句という文句を言われたけれど、何とか彼を引き入れることができたわけだし。



