すべての花へそして君へ③


『――チッ。どうやら馬鹿が余計なことをしたようだ』

『……ふむ、悪い状況になったってことはわかりました』

『悪いで済めばいいがな』

『済むんじゃないんですか? 多分。……きっと?』


 けど、まあこの件に関しては、ある程度予測して動いていたわたしに無事、一任してもらえたし。


『君の言ったとおりだ。俺の立場もそう。家族もいる。妻と娘が二人。仕事は、君の監視と場合によっては暗殺の許可も出ている』

『……』

『……ねえ知ってる? 葵ちゃん。俺みたいな奴はね、中途半端に知られることが一番嫌いなんだ』

『……』

『でも、どうやら君には全部お見通しみたいだ』

『……』

『だからね、葵ちゃん。俺は』

『ストップ』

『……聞いてくれないの?』

『流石にそれは、言わせられません』


“だってあなたには、大事なものがあるのだから”
“わたしの隣は、もうあげられないから”


『だから、言います。シズルさん? もしあなたにその気がないのなら……』


 ――わたしの、お手伝いをしてみませんか?


『……本気で、言ってるの』

『選ぶのは、あなたですよ』

『俺の……立場を知っていて、君はそんなことを言うの』

『……シズルさん』


 宥めるような声に、僅かに動揺でもしたのか。彼は、わたしの言葉をまるでその時初めて聞いた言葉のように、繰り返し呟いた。


『予め言っておきますが、わたしがあなたに強制することは報連相だけです』

『ほうれんそう』

『指示はします、ある程度。時間の拘束も長いでしょう。けれど命令はしません。あなた自身を、わたしは尊重します』

『……尊重』

『やることは多いですよ? でも、すごく遣り甲斐があります』

『遣り甲斐、か』

『……ねえシズルさん。今度はわたしと、一緒に誰かを見守りませんか?』

『見守る、ねえ……』


 あれこれとボスには文句という文句を言われたけれど、何とか彼を引き入れることができたわけだし。