『トーマさん』
『あれ、葵ちゃん。バイト終わるの待っててくれたの? ありがとう。それじゃあデート行こっか』
『先に言っておきますが、事情があって詳しくは話せないのはお互い様ということで』
『ん?』
『思い切って言いますね。“バイトの後輩をいじめる”のはもうやめてください』
『……』
『“ストーカー被害に遭ってるかもしれない”って、知り合いのわたしに連絡が来ました』
『……なんだ。てっきり俺は、彼が君たちに迷惑かけてるのかと思ってたのに』
『……』
『そうとわかれば、俺も安心。君のお願いだし、もうしないよ』
『……』
『ま、見返りは欲しいところだけど』
(すんなりいくわけないと思ってたけど。……背に腹はかえられないか)
『それで? どうする?』
『はあ。わたしはどうすればいいんでしょうか』
『お着替えシーンの写真で手を打とう』
『……ストッキングでもいいんですよね』
『ありがとう、家宝にするよ』
……とかね。
そんな犠牲になったのは、いつぞやの誰かさんのメイドのお着替えシーンですけれど。誰のとは言われてないもの、誰のとは。
(まあ、それでもトーマさん気に入ってくれたみたいで、集めた写真や情報は、すんなり渡してくれたけど)
おかげで、今まで一枚も持っていなかったという家族写真を、彼に渡すことができた。それについてだけ言えば、トーマさんには感謝感謝だ。
『わたしのことを嗅ぎ付けて、誰かが接触してくることは予想していました。わたしは、それだけ多くの爪痕を残してしまった』
事件は事なきを得ず。無事に解決はしたけれど、いろいろな場所で様々な噂が立ち、見る目がいい意味でも悪い意味でも変わったのは事実だった。
“――だが、お前は知っておいた方がいいだろう”
【私は“知っておくように”と伝えたはずだ。気付くなら、その最後まで理解しなさい】
そして時期を待てない者が、必ず誰かを送り込んでくる。
【あるとすれば接触は、少し先か――……】
初っ端に向けられるのは悪意。それも、高い位置から。……あるいは。



