すべての花へそして君へ③


『トーマさん』

『あれ、葵ちゃん。バイト終わるの待っててくれたの? ありがとう。それじゃあデート行こっか』

『先に言っておきますが、事情があって詳しくは話せないのはお互い様ということで』

『ん?』

『思い切って言いますね。“バイトの後輩をいじめる”のはもうやめてください』

『……』

『“ストーカー被害に遭ってるかもしれない”って、知り合い(、、、、)のわたしに連絡が来ました』

『……なんだ。てっきり俺は、彼が君たちに迷惑かけてるのかと思ってたのに』

『……』

『そうとわかれば、俺も安心。君のお願いだし、もうしないよ』

『……』

『ま、見返りは欲しいところだけど』

(すんなりいくわけないと思ってたけど。……背に腹はかえられないか)

『それで? どうする?』

『はあ。わたしはどうすればいいんでしょうか』

『お着替えシーンの写真で手を打とう』

『……ストッキングでもいいんですよね』

『ありがとう、家宝にするよ』


 ……とかね。
 そんな犠牲になったのは、いつぞやの誰かさんのメイドのお着替えシーンですけれど。誰のとは言われてないもの、誰のとは。


(まあ、それでもトーマさん気に入ってくれたみたいで、集めた写真や情報は、すんなり渡してくれたけど)


 おかげで、今まで一枚も持っていなかったという家族写真を、彼に渡すことができた。それについてだけ言えば、トーマさんには感謝感謝だ。


『わたしのことを嗅ぎ付けて、誰かが接触してくることは予想していました。わたしは、それだけ多くの爪痕を残してしまった』


 事件は事なきを得ず。無事に解決はしたけれど、いろいろな場所で様々な噂が立ち、見る目がいい意味でも悪い意味でも変わったのは事実だった。


“――だが、お前は知っておいた方がいいだろう”

【私は“知っておくように”と伝えたはずだ。気付くなら、その最後まで理解しなさい】

 そして時期を待てない者が、必ず誰かを送り込んでくる。


【あるとすれば接触は、少し先か――……】

 初っ端に向けられるのは悪意。それも、高い位置から。……あるいは。