『苦しみを感じられるように、是非とも私に暇というものを与えて欲しいものだな』
それは、皮肉と取るべきか強がりと取るべきか。ふっと笑みをこぼしたかと思うと、ぽんとひとつ、頭を叩く。
『いいか。この件、一切の他言は無用とする。いいと言うまで、守り抜いてみなさい』
『……それって』
もし、今聞いたことを全て、ヒナタくんに話したらどうなるか。
事後処理のこともそう。未解決の事件のことだって、子どもたちの保護だって。目の前の人に振り回されて、自分のことしか頭が回らなかったけれど。
わたしは、とんだ勘違いをしていたのか。
『何処から何処までなど、ましてや何時までなど訊いてくれるなよ。愚か者』
『なっ』
『顔に書いてある。愚か者』
(二回も言われたっ)
この人はずっと、守ってくれていたのだ。振り回したその、言葉の中で。何度も。わたしのことも。……ヒナタくんのことも。
わしゃわしゃっと頭を混ぜ繰り回されると、目の前の彼は、年相応の表情で笑った。
『毒を食らわば皿まで。墓場まで、共に持って行けばいい』
『……それ、なんか嫌なんですけど』
『拒否権があると思うなよ。これは【命令】だからな』
『……ふふっ。はーい、わかりましたよボス』
見えた彼の本心は、人を幸せにしたい想いが、誰よりも強かった。
『……なんだ、そのボスっていうのは』
『え? 何ていうか、雰囲気作り?』
『要らん』
『えー』
――――――…………
――――……
そんなこんな、ボスとの遣り取りがありまして。このわたしがまんまと言い包められて、ここにいる子どもたちのシスター。まあ先生として、彼らを指導することになったのです。
「全くもう、マザーったらどこまで話したんだか」
みんなには内緒ということで、初めは試行錯誤。要領よくできなくて上手くいかないこともあったけれど、ボスやマザー、それからシズルさんのおかげで今、こうしてわたしは再びヒナタくんと一緒に歩くことができている。その“内緒”のせいで、擦れ違ったところがあるのは否めないけれど。
(心配性なんだもんなあ、ヒナタくんってば)
けれど、その心配性も実は無下にはできないことがある。それは、彼がどうしても気になって仕方がないあの人。
【それでシズルさんは、わたしを殺しに来たんですか?】
彼の立場はそれはそれは複雑で。今は警察関係者ということで落ち着いているけれど、そうなるまでにもいろいろと一悶着があったものだ。たとえば……。



