すべての花へそして君へ③


 このあとどう来るのか。オレはいやと言うほど知っている。


「取り敢えずさ、ひーくんあーちゃんと話した方がいいって」

「わかってる」

「なら頑張って連絡取ってみなよ」

「そう、だね」


 それが、できればいいのにね。
 どうしてか、もう一回の連絡を、入れることができない。重くなってしまった腰が、上がってくれない。できれば、オレだってこんなに苦労してない。悩んでない。


「いいんじゃね、別に」


 だから、そう言われた時どう反応すればいいかわからなかった。


「ちーちゃん! なんでそんなこと言うの!」

「耳にタコなんだよ」

「え? どういうこと」

「当人たちの問題だってこと。オレらが何か言ったところで変わるもんじゃねえだろ」


 それでもと。こうした方が、ああした方がと言うオウリの文句を一つも嫌がらず、チカは一言一句聞いていた。
 そんな二人の様子を横目に、オレは抹茶パフェに逃げた。

 今まで一度も見せなかった彼の一面に、正直言葉が見つからなかった。対応の仕方が、わからなかったんだ。


「……お前らまた入り浸ってたのか」

「お、ユッキー。はよー」

「れんれん? ……はっ! 今何時!?」

「今? ……4時半前だけど」

「あー! あかねに怒られるうー!!」

「「……アカネに??」」


 一番怒りそうのない人物の名にオレらは首を傾げたけれど、叫んだ当の本人は血相を変えて店から出て行った。
 あんなにオウリが怖がるくらいには、アカネも怒ると怖いらしい。


「……そういえば、今日夕方から道場の方に呼ばれてるっつってたな」


 一緒に子どもたちの稽古を見て欲しいとか何とか……と、チカは残っていたミックスジュースを勢いよく飲み干す。


「……稽古か」

「レンは時間の無駄だと思うよ。それするくらいなら女に生まれ変わった方が早いと思う」

「うるさい。わかっている」

「ユッキー。ここは一応否定しとくかキレとこうぜ」


 そして完全に飲みきったチカは、伝票をレンに渡した。
 どうやら彼も、もう家に帰るらしい。


「チカ」

「割り勘な」

「え?」

「こういうのは大人になってからでいいんだよ」


 そう言いつつ、帰ったオウリの分まで出したチカには、有無を言わせぬものがあった。
 まあ、ミックスジュースと抹茶パフェは、やっぱりオレ持ちだったけど。


「じゃあなユッキー」

「また来るね」

「毎度どうも」


 大人への一番乗りはこいつだろうと、なんだかんだで思ってはいたけれど。正直、置いていって欲しくないなと寂しく感じている自分がいて、彼の見えないところでオレは小さく笑っておいた。