――だから君が、彼らの道導となれと。
『事後処理事後処理と言うが、要は警戒心の強い子ども相手に、大人たちだけでは手に余るからその緩衝剤としてお前にはついて行って欲しい。ただそれだけの話だ。そして、先程の提案が条件。君に、彼等のことを任せたい。勿論、先程と同様一人にはさせない。誰か付けさせよう』
この人は、自分が何を言っているのかわかっているのだろうか。
犯罪紛いのことをしたわたしに、その犠牲になったかもしれない彼らを任せると……?
導き手に、なれるはずもない。なれる、資格すらないのに。
『無理にとは言わん。条件というよりこれは私からの提案だ。“事後処理”と“信用回復”に努めてくれるのであれば、先程申し出た君の条件は甘んじて受け入れよう』
どうして、そう何度も何度も、大きな爆弾を落としてくるの。
『しかし、今話した内容は他言無用とする』
『……え』
『以上だ』
『……ちょ、ちょっと待ってください』
『待たん』
『いやいやいや……』
でも即答する辺り、何を言いたいのかはわかっているらしい。
『それは、隠し事をしろと言うことですか』
『……』
否定はなし。そしてきっと、沈黙は肯定。
隠し事は、できることならもうしたくなかった。もう懲りた。十分だ。ましてや大好きな人たちに、黙っておくことなんて……。
『全てを語ることが正しいわけではない』
わたしの葛藤を察してか。渋々開いた口から溢れてくる言葉から感じ取れるのは、僅かな同情。
『愛する者のためには、吐かねばならない隠し事があるというものだ。この世には』
『……それは、貴方も?』
『…………』
『貴方も、愛している人に、ずっと嘘を吐いているの……?』
『……嘘を吐けとは言っていない。私は“隠せ”と言った』
『隠しているの? ずっと……?』
押し黙ったのは、どれくらいだったか。
嘆息を洩らしながら椅子から立ち上がると、目の前の人は一度だけ。本当にそうしたのかどうか判別がつかない程度に、小さく手を招く。
(……へ?)
頭に優しく乗った手に、何が起きたのか、すぐにはわからなかった。
あまりにも予想外すぎて、驚いて。反応に困ったわたしは、言葉も発せずただただ固まっていた。
『これが、母なる血に憑かれた者の宿命か』
わたしの動揺を知ってか知らずか。机越しに引き寄せそっとわたしの頭を撫でながら、小さく呟きが落ちていく。
『けれど一人じゃない。私が知っている』
(この人は……)
『そして、お前が知っていてくれる』
『……り、……だったんですか』
『ん? なんだ』
『貴方はずっと、一人だった……?』
『……』
『ずっと。ずっと、苦しかった……?』
不安げに揺れるわたしの声に刹那、驚いたような表情が見えた気がした。



