彼は不安げに視線を彷徨わせていた。その表情に、記憶のどこかで重なる部分がある気がして。……少し。ほんの少し、懐かしくなる。
そっと頭を撫でてやると、彼は一瞬驚いたものの、次にはそれは嬉しそうに頬を緩めた。
「お兄ちゃんの、話が聞きたい」
「オレ? 何も面白い話できないんだけど」
「桜ヶ丘高校の二年生なんだよね?」
「ん? まあ、そうだね」
「Sクラスで、出席番号8番」
「そうそ、……ん?」
あれ。そういえばあおい、オレの出席番号とか知ってたっけ? まあ。知ってるかあいつなら。
「今年で17歳。2月29日生まれの魚座でAB型」
「……ちょっと待て。血液型はまだどこにも情報出てないのに」
「財布の中に、実はあおの写真こっそり入れてるんだよね」
「それは非公開情報! てか個人情報! プライバシーの侵害!」
「あ! やっぱりあおだったんだね!」
(……オレのバカ)
てかこいつ、なんでそんなこと知って。
「それ以外のこと。ひな兄ちゃんのこと知りたいって言ったら、教えてくれる?」
「……」
こんな子どもに、オレは墓穴を掘った挙げ句脅されるのか。
警戒レベルが上がった。ほんと、いろんな意味で。



