すべての花へそして君へ③


 彼は不安げに視線を彷徨わせていた。その表情に、記憶のどこかで重なる部分がある気がして。……少し。ほんの少し、懐かしくなる。
 そっと頭を撫でてやると、彼は一瞬驚いたものの、次にはそれは嬉しそうに頬を緩めた。


「お兄ちゃんの、話が聞きたい」

「オレ? 何も面白い話できないんだけど」

「桜ヶ丘高校の二年生なんだよね?」

「ん? まあ、そうだね」

「Sクラスで、出席番号8番」

「そうそ、……ん?」


 あれ。そういえばあおい、オレの出席番号とか知ってたっけ? まあ。知ってるかあいつなら。


「今年で17歳。2月29日生まれの魚座でAB型」

「……ちょっと待て。血液型はまだどこにも情報出てないのに」

「財布の中に、実はあおの写真こっそり入れてるんだよね」

「それは非公開情報! てか個人情報! プライバシーの侵害!」

「あ! やっぱりあおだったんだね!」

(……オレのバカ)


 てかこいつ、なんでそんなこと知って。


「それ以外のこと。ひな兄ちゃんのこと知りたいって言ったら、教えてくれる?」

「……」


 こんな子どもに、オレは墓穴を掘った挙げ句脅されるのか。
 警戒レベルが上がった。ほんと、いろんな意味で。