すべての花へそして君へ③


 そう、何が大変だったかって、あおいが一番大変だった。オレと、あの男の子に振り回されて、それはそれはかわいそうに。


(まあそいつも、自分の思うように事が運ばなくて今頃ヤキモキして……)

「ヒナタくん? 教育上よくありません。言葉を慎んでください」

「ごめんごめん、つい悪戯心が」

「それ、わたしに対してでしょ」

「あなた以外に誰がいると?」


「全くもう……」と小さく呆れる彼女だったけれど、その後ふっと、優しい笑みを浮かべてくれた。


「ヒナタくんらしいけど、節度は守ってね」

「はーい」

「あと、あの子のこと。嫌いにならないであげて?」

「……どちらかというと、嫌われているのはオレの方では?」


 あの頃の子どもの心理は……まあ、オレはちょっと特殊だったし、理解できるかはわからないけれど、何を考えているのかは何となくわかる。
 オレにシスターが、あおい取られると、そう思っているんだろう。元々オレんだけど。


「ううん。実はその逆なんだ」

「……逆?」


「まあそういうことだから、よかったら話をしてあげてね。では!」と、実はおっぱいの下りが相当恥ずかしかったらしい彼女は、顔を染めながらオレの前から超特急で逃げ出した。


(話すと言ってもねえ……)


 つうかおっぱいって何だ。見せたのか。触らせたのか。


(それについては、ガキだとしても容赦しねえ)


 人のもんに何勝手に手出してくれてんだ。ここは、いっちょ大人の力というものを見せつけて――


「ごめんなさい」

「……」

「あおに、……怒られた?」

「……」

「……本当に、ごめんなさい」

「……」


 この時以上に、口に出して独り言を喋らなくてよかったと、思う時はやっては来ないだろう。
 オレは、安堵の息を深く吐いた。


「怒られてはいないよ」

「……本当?」

「うん。寧ろ大好きって言われた」

「ははっ。そっか」


 あれ。思ってた反応と違う。
 じゃあやっぱり、嫌われてはいないということか。


「……名前は?」

「あ、……イト」

「オレはヒナタ」

「……うん。知ってる」


 あおいから、それかマザーから聞いていたのだろう。それか、オレらの会話で流石に察したか。
 それには何の疑問も持たず、オレはあおいに言われたとおり、少し話をすることにした。


「よかったらイトのこと教えてよ」

「え? ……えっと」

「難しい? だったら違うこと話そうか」

「あ、違う! そうじゃ、なくて……」