そう、何が大変だったかって、あおいが一番大変だった。オレと、あの男の子に振り回されて、それはそれはかわいそうに。
(まあそいつも、自分の思うように事が運ばなくて今頃ヤキモキして……)
「ヒナタくん? 教育上よくありません。言葉を慎んでください」
「ごめんごめん、つい悪戯心が」
「それ、わたしに対してでしょ」
「あなた以外に誰がいると?」
「全くもう……」と小さく呆れる彼女だったけれど、その後ふっと、優しい笑みを浮かべてくれた。
「ヒナタくんらしいけど、節度は守ってね」
「はーい」
「あと、あの子のこと。嫌いにならないであげて?」
「……どちらかというと、嫌われているのはオレの方では?」
あの頃の子どもの心理は……まあ、オレはちょっと特殊だったし、理解できるかはわからないけれど、何を考えているのかは何となくわかる。
オレにシスターが、あおい取られると、そう思っているんだろう。元々オレんだけど。
「ううん。実はその逆なんだ」
「……逆?」
「まあそういうことだから、よかったら話をしてあげてね。では!」と、実はおっぱいの下りが相当恥ずかしかったらしい彼女は、顔を染めながらオレの前から超特急で逃げ出した。
(話すと言ってもねえ……)
つうかおっぱいって何だ。見せたのか。触らせたのか。
(それについては、ガキだとしても容赦しねえ)
人のもんに何勝手に手出してくれてんだ。ここは、いっちょ大人の力というものを見せつけて――
「ごめんなさい」
「……」
「あおに、……怒られた?」
「……」
「……本当に、ごめんなさい」
「……」
この時以上に、口に出して独り言を喋らなくてよかったと、思う時はやっては来ないだろう。
オレは、安堵の息を深く吐いた。
「怒られてはいないよ」
「……本当?」
「うん。寧ろ大好きって言われた」
「ははっ。そっか」
あれ。思ってた反応と違う。
じゃあやっぱり、嫌われてはいないということか。
「……名前は?」
「あ、……イト」
「オレはヒナタ」
「……うん。知ってる」
あおいから、それかマザーから聞いていたのだろう。それか、オレらの会話で流石に察したか。
それには何の疑問も持たず、オレはあおいに言われたとおり、少し話をすることにした。
「よかったらイトのこと教えてよ」
「え? ……えっと」
「難しい? だったら違うこと話そうか」
「あ、違う! そうじゃ、なくて……」



