「ヒナタくん覚えてる?」
「ん?」
「わたしが、世界で一番の幸せ者にしてあげるって。覚悟しといてねって、言ったこと」
「んー、そんな可愛い言い方ではなかった気がするけど」
「それは、その前に泣かす方が悪いのでは?」
「泣いた方が悪いんだよ」
素直になれないオレに、彼女はクスクスとおかしそうに笑う。
そんな彼女を見てオレも思い出す。
「見られるよ。絶対。きっとすぐそこにあるよ」
「そっか」
オレたちの始まりの夜のこと。あの時君に伝えた、真っ直ぐな気持ちを――。
「…………」
「……?」
「あれ。え? 今じゃないの?」
「今って何が?」
「何がって、プロポーズだよ! それっぽい話してたじゃん!」
「だから、何回も言うけど、オレまだ高校生」
「歳なんて関係ないよ!」
「歳は関係ないかも知れないけど、時と場所とタイミングは関係あるでしょ」
「今絶好だったじゃない!?」
「そう思ってるのはあんただけだよ」
「え。本気で言ってる?」
「ええ、そうですね」
再びガーンと、割と本気でショックを受けている。どうやら、今のタイミングで言っていたら、即刻OKをもらえていたらしい。
(……ま。言えるもんなら、今すぐにも言いたいところだけど)
君が君ですることがあるように。オレにもオレで、きちんとしておきたいことがありますから。
そんな彼女に、小さく笑いながら。愛おしい君にそっとキスをしようと、頬に手を伸ばしたところで。
「あお、こんなところにいた」
「「――!?!?」」
「みんなご飯待ってるよ」
「ご、ごめんね! 行こう! すぐ行こう!」
「うん。あ、あとね」
「ん? 何かあった?」
「子どもの俺が言うのもなんだけど、いちゃつくのも時と場所と体裁、それから教育面。考えてよね」
「……はい」
伸ばそうとしたところで邪魔が入ってしまった。どうやら今日のオレは、いろいろとタイミングが悪いらしい。はあ。



