「葵ちゃんも、今じゃあの人の本質に気付いてくれたからいいものの、気付くまで大変だっただろうに……」って言ってるけど。え、もしかして旦那さんって……。
「ああいうのを、頑固なツンデレって言うのよね」
「ツンデレ云々の問題でないのでは」
「それ以上にそもそも困った性格よね」
(オレよりも酷そうな人がいた)
「それについては自信もっていいと思うわよ。嫁の私が保証する」
「そ、それもそれでいいんですか?」
「勿論、いいに決まってるわよ。あの人、私には頭上がらないんだから」と、言っている時点で、ちょっと見えたオレの未来には大きく頭を振っておいた。
(……聞いてみてもいいのかな)
「ねえ日向くん」
「あ、はい」
「今日は、来てくれて本当にありがとう。久し振りに、こんなに沢山お話しできて楽しかったわ」
「……オレでよければ、いつでも」
「ありがとう。正直言うとね、貴方に会うまで不安だったの」
「え?」
「あんなにいい子を振り回してる男は、一体どんなツラしてるんだろうって」
(正直振り回されているのはオレの方だと思うんだけど)
「ふふっ。でも、実際会ってみたらわかったの。貴方なら大丈夫だって。だって、今日会っただけで私、貴方のこと大好きになったから」
「……」
“私の、私たちの大好きな葵ちゃんをよろしくね?”
耳元に寄せられた、そんな小さなお願いに、認められた嬉しさというか、むず痒さというか。何とも言えない気持ちが込み上げる。
「……ありがとう。オレも、マザーのこと大好きです」
葵のことを、大事に思ってくれていること。それを含め、今日一日であなたのことが人として大好きだと。
……そう言ったつもりだったのだけれど。
「…………」
「あ」
「あら?」
「浮気現場か」
どうやら、勘違いする馬鹿な奴もいるらしい。ていうか、ちょっとタイミング悪かっただけだから。
「盛り付け終わったの?」
「冷たいお茶かちょっと冷たいお茶か、ぬるいお茶か温かいお茶か熱いお茶か、どれがいいかと思って聞きに来た」
「あんたのお勧めは?」
「煮立ったお茶」
これは……うん、どうしたものか。
「……ん。じゃあそれで」
「なんでそんなこと言うの」
「だってあんたのお勧めでしょ? だったら飲むよ」
「わかってるくせに。わたしが意地悪で言ってるって」
「うん知ってる。勘違いしたヤキモチが可愛いかったからつい」
「へ?」
本音を言うと、もうちょっと見ていたかったけれど。
ちっちゃな彼女の頭に顎を乗せるように、正面から抱きしめてやると、彼女はあたふたとした。
「ちょ、こんなところで……!?」
「可愛いことする方が悪いー」
「まっ、マザーが見てるから……!」
「マザー見てませーん。ついでにマザーはもういなくなりまーす」



