すべての花へそして君へ③


「葵ちゃんも、今じゃあの人の本質に気付いてくれたからいいものの、気付くまで大変だっただろうに……」って言ってるけど。え、もしかして旦那さんって……。


「ああいうのを、頑固なツンデレって言うのよね」

「ツンデレ云々の問題でないのでは」

「それ以上にそもそも困った性格よね」

(オレよりも酷そうな人がいた)

「それについては自信もっていいと思うわよ。嫁の私が保証する」

「そ、それもそれでいいんですか?」


「勿論、いいに決まってるわよ。あの人、私には頭上がらないんだから」と、言っている時点で、ちょっと見えたオレの未来には大きく頭を振っておいた。


(……聞いてみてもいいのかな)

「ねえ日向くん」

「あ、はい」

「今日は、来てくれて本当にありがとう。久し振りに、こんなに沢山お話しできて楽しかったわ」

「……オレでよければ、いつでも」

「ありがとう。正直言うとね、貴方に会うまで不安だったの」

「え?」

「あんなにいい子を振り回してる男は、一体どんなツラしてるんだろうって」

(正直振り回されているのはオレの方だと思うんだけど)

「ふふっ。でも、実際会ってみたらわかったの。貴方なら大丈夫だって。だって、今日会っただけで私、貴方のこと大好きになったから」

「……」


“私の、私たちの大好きな葵ちゃんをよろしくね?”

 耳元に寄せられた、そんな小さなお願いに、認められた嬉しさというか、むず痒さというか。何とも言えない気持ちが込み上げる。


「……ありがとう。オレも、マザーのこと大好きです」


 葵のことを、大事に思ってくれていること。それを含め、今日一日であなたのことが人として大好きだと。
 ……そう言ったつもりだったのだけれど。


「…………」

「あ」

「あら?」

「浮気現場か」


 どうやら、勘違いする馬鹿な奴もいるらしい。ていうか、ちょっとタイミング悪かっただけだから。


「盛り付け終わったの?」

「冷たいお茶かちょっと冷たいお茶か、ぬるいお茶か温かいお茶か熱いお茶か、どれがいいかと思って聞きに来た」

「あんたのお勧めは?」

「煮立ったお茶」


 これは……うん、どうしたものか。


「……ん。じゃあそれで」

「なんでそんなこと言うの」

「だってあんたのお勧めでしょ? だったら飲むよ」

「わかってるくせに。わたしが意地悪で言ってるって」

「うん知ってる。勘違いしたヤキモチが可愛いかったからつい」

「へ?」


 本音を言うと、もうちょっと見ていたかったけれど。
 ちっちゃな彼女の頭に顎を乗せるように、正面から抱きしめてやると、彼女はあたふたとした。


「ちょ、こんなところで……!?」

「可愛いことする方が悪いー」

「まっ、マザーが見てるから……!」

「マザー見てませーん。ついでにマザーはもういなくなりまーす」