すべての花へそして君へ③


 絶妙なタイミングで現れやがったな、プライド玉砕兵器め。


「ね、マザー。やっぱり口悪いでしょうヒナタくん」

「うちの旦那も似たようなものよ」

(……あれ。愛情表現ストレートって言ってたのに)

「それはそうと、二人とも。もうすぐご飯ですよ! 誰が呼びに行くかって揉めそうになったので、よーいドンでわたし一番!」

「ありがとう葵ちゃん。すぐに行くから、盛りつけもみんなでお願いしてもいいかしら」


「了解シチューonライスぅううー!」と叫びながら再び彼女は部屋を出て行った。メニューはわかったけれど、本当、忙しない奴。


「ふふ。よっぽど日向くんのこと、大好きなのね」

「今のどこをどう取ったらそうなりますか」

「わかるわ。確かに、いつもあんな風にみんなを笑わせるためか素か、楽しいことを沢山やったりするけれど」

(たぶん素だと思いますよ)

「それでもね? いつもちゃんと“お姉さん”をしてくれるのよ。今もしているけれど、それでもいつもよりも幾分気が抜けている。それに楽しいって、嬉しいって、体から溢れてる」

「……オレには、いつも通りに見えますけど」


 でも、それがもしオレだけの前だとしたら。……何だろうかこの、ちょっとした特別感というか、独占欲というか。


「ねえ日向くん。さっきの後者って?」

「え? それは……」

「その顔で十分よ。ご馳走様」

「…………」

「私とのお話、楽しかった?」

「そうですね、それもありますけど嬉しかったです」

「あ、どの辺が?」

「お互い、結構何も言わなくてもわかり合ってることが多いんですけど……」


 今日彼女と話せてよかった。きっとあいつは、ここまで教えてくれるつもりはなかっただろうから。


「……改めて、知れてよかった? 葵ちゃんの気持ち」

「はい」

「でも、私は予想だと言ったはずだけれど?」

「それでも、何となくそうなんじゃないかなって思うので」

「……そっか。でも、今日話したことは」

「はい。わかってます」


 だからオレも、やっぱりあいつしかいないんだって。……あおいが心底好きなんだって、改めて実感したんだ。


「ねえマザー。マザーの旦那さんって、どんな人?」

「ん? そうね。一言で言うと面倒くさい人」

「え」

「愛情表現が真っ直ぐでも、それまでが全然ダメなのよ」

「だ、ダメ……」

「大事なことを抜いて話すの。あれはもうたぶん癖のようなもので、話すことを何故か照れくさいとでも思っているのね、きっと」

「あ、愛情は、ストレートなのに」

「ダメダメでしょう? ほんと、葵ちゃんのことがいい例よ」


 あおいが? 何がいい例?


「私が貴方に話したこと全部。そういうことを抜いて話してしまうから、相手は誤解するし不安になったりするじゃない?」