彼女はそう言うけれど、大和撫子とは本来、日本女性の清楚な美しさを褒める言葉だ。
仮面を付けているあいつならまだしも、正直清楚という言葉からはかけ離れているように思う。オレが言うのも何だけど。いや、別にオレはだからってそれが嫌というわけではないし、そのままのあいつがいいわけで……。
「昔とは違って、このご時世どの方面にも長けている女性はどこに行っても好かれるでしょう。葵ちゃんに至っては武にも長けているし、おかげでここにいる子どもたちはそれはそれは沢山のことを教えてもらえている」
「それは……そうでしょうけど」
「でも、そんな能力を持っているなら、男の人の前に……いいえ、上に立つことだってできるわよね?」
「……言っておきますけど、立ててもらったことはないですよ、オレは。一度も」
「貴方が気付いてないだけかもしれないわよ?」
「いいえ。何でもできるしオレよりもできるんで、ちょっとは遠慮してくれといつも言いたいくらいです」
拗ねた口調になると、彼女はきょとんとなる。
そして、半ば投げ遣りなオレに、クスクスとおかしそうに笑った。
「私の、勝手な予想よ?」
「……それで、あいつがいつオレを立ててくれたと?」
「貴方に、教えなかったでしょう?」
「何を」
「裏で起こっていたことをよ。道明寺の事件の」
「……」
「厳しいことを言うようだけれど、貴方は全員を助けることができなかったかもしれないわ」
「……」
「けれど貴方は、貴方の可能範囲で全員を救うことができたのもまた事実よ」
「え……?」
「大人の手を借りていたとしても、貴方は普通のやり方では救えなかったかもしれない人々を助けたの。それはもう、全員ね? そこから溢れてしまった人たちを拾うのが、私たち大人の仕事よ」
「……」
俯いていると、静かにレモンパイがお皿に乗せられた。正直、いろんな意味でお腹いっぱいだった。
「さっき、自分を責めたでしょう」
「え」
「子守の話をした時よ」
「……」
「確かにそういう子もいるけれど、ほとんどの子たちは葵ちゃんが連れてきちゃったのよ」
「え?」
「一人の寂しさを知っているから。家族の温かさを知っているから。お友達の、大切さを知っているから」
「……」
「貴方に自分を責めて欲しくなかっただけじゃなくて、誰にも貴方のことを責めて欲しくはなかったのよ」
「……責めるって」
「これだけのことを貴方がしてくれたということ。自分が笑っていられること。貴方の隣に、立てること。それを否定していると誰にも思われたくはないから、口にも出したくなかったのかなって。勿論貴方自身にも」
「……」
男のプライド。そんな話を何度もしてきたけれど、それはいつも悉く、他でもない彼女に打ち砕かれていて……。
「いいえ。きっと、貴方のことが大好きだから。ただ、それだけの理由ね」
(……あおい)
「ねえ、日向くん」
「……うん。やっぱり大和撫子じゃないに一票」
「あら、そう?」
「あいつは、男のプライドを壊す兵器みたいなものなので」
「え? ふふっ」
「だから、オレは後者に一票で――「誰が兵器だってえー!?」……え」



