「いろいろ、誤解が解けたみたいでよかったわ」
「それならそうと、勿体振らずに話してくれればいいのにって言うのが本音ですけど(……あれ?)」
そう口に出してから気付く。これくらいのことなら、許容範囲内だろう。事情を知っているオレなら尚更。
それなのに、何故わざわざ、上はそれを許可しなかったのか。
『ここが、ボーダーラインだ。ヒナタくん』
……この先に、何かあるのか。
「あの」
「話すのを許可しなかったのは、また貴方の中でもやもやが広がってしまうから」
「マザーも、これ以上は教えてくれないんですか」
「いいえ? 私は、貴方のもやもや解決に尽力を尽くすわ」
にっこりと笑った彼女が席を立ち、次に持ってきたのは……。
「はい、レモンパイ。私の大好物なの、美味しいのよ?」
「……あの、いやだからもうすぐ夕飯……」
「それで話の続きなんだけど」
(ダメだこりゃ……)
ホールで出てきたそれを切り分けながら、彼女は精一杯オレのもやもや解決に努めてくれた。
「話す許可をもらえなかった一番の理由は」
(あ、このレモンパイ本当に美味しい……)
「よければ一つと言わずどんどん食べてね」
「一番の理由は?」
「ああそうそう。理由はね、とある謀り事があったから」
「……謀り事?」
「ここからは私の推測だし、恐らく葵ちゃんも詳しく聞かされてはいないんじゃないかと思うのだけど」
「……」
「それでも聞く?」
「教えてください」
きっとこれは、事件に深く関わっていた者として聞くべきだと、オレはそう感じた。
「道明寺の事件は、もしかするとその裏でめぐらされていた密謀を遂行するための、【駒】に過ぎなかったのではないかと」
頬張っていた大きめのパイから、乗っていた輪切りのレモンが容赦なくベチャッと机に落ちた。
んでもって、盛大に噎せた。
「まあまあ、紅茶でも飲んで落ち着いて」
「こ、これが落ち着いていられますか!?」
「え? でももうその密計は解決してるのよ?」
「え?」
「そもそも終わっていること。だから、慌てたところで何も始まらないわ」
「…………」
「落ち着いた?」
「……はい」
彼女曰く、その事件は道明寺の事件とともに、混乱を招かないよう静かに解決をしたらしい。もしかして当日、カナの母――沙羅さんが担当していた事件がそれだろうか。
「あくまでも私の推測よ。あと、このことはここだけの秘密」
「心得てます」
でももし、本当にそんなことが根本にあったとしたならば。確かに、そう簡単に話していいものではなさそうだ。このことは、オレの胸の内だけに止めておこう。



