「それは……」
「そこで話は戻るんだけど」
人の話を最後まで聞かないのも、よく似てるなと思った▼
「彼女にそんなお仕事をお願いしたのは、彼女自身を守るためでもあるの」
「守る?」
「そう。彼女が、とってもいい子だって事を、沢山の人たちに知ってもらうためにね?」
「え?」
茶目っ気たっぷりの笑顔のおかげか。あのわかりきった下りのせいか。
「葵ちゃん、お仕事について何も言ってはいなかった?」
“わたしのしている仕事は、身が持たなくて、婚期が遅れて、普通にはできないことで……というかしようと思わないことらしい”
【んでいつも最終的には『一番、お前の仕事がラクで羨ましい』って言われます。なんでだろうね?】
それとも、心配性の自業自得か。
「あー、……はい。言ってましたね」
いつの間にか、震えは治まっていた。今は何故か、安心よりも呆れが体中を支配してる。なんでだ。
「ちょっとは元気になった? 蜜柑もう一個いる?」
「もらいます」
もらっとこう。そんでもって、もう一回自分の勘違いも含め整理し――
「その人にとってはとても大事なことでも、仕事上どうしても優先順位というものを付けてしまうでしょう? この世は平和だと、言い切ることができないのはそのせい」
「…………」
「葵ちゃんに任せられたのは、事件性はかなり低いと判断されたものばかり。葵ちゃんの持っている潜在能力から、どうしても危ないことを考えてしまうのも無理はないわ」
「…………」
「そんな、“手に負えない未解決事件”を解決するために、彼女は世界中を飛び回っていたというわけ」
「…………」
「これじゃあ、どちらかというと探偵のお仕事みたいだよねー」
「……あの、だからってその、この恰好は」
「ああこれ? 葵ちゃんの仕事着よ。よく似合ってたから思わずこう……カシャッと」
「…………」
少し前から黙っていたのは、オレのよく知っている少女が、蝶ネクタイと眼鏡をかけ、短パンまで履いて少年探偵的な恰好で写真に楽しそうに写っていたからだ。言葉もなくすわっ。
「ま、形は一見ふざけてるけれどね?」
「頭が痛い……」
「一つまた一つと解決するごとに、表面上の数字は、信用を少しずつ回復しているように見える。でもそれと一緒に葵ちゃん自身も守っているの」
「……力を、見せつけているということですか」
「寧ろその逆」
「え?」
「仕事という仕事は事件というよりお悩み解決、それから子守よ? 見せつけるのは、彼女に“それだけの力しかない”ということだけでいいの」
「……!」
「それに……こう言っちゃ悪いけれど、こんな楽しそうな恰好をしている彼女が恐ろしいこと考えられるなんてこと、噂を聞いていたとしても、誰も彼女だなんて思わないでしょう?」
「確かに」
けれど、どの彼女も本当の彼女だ。
小さな頃から、大人以上の頭脳を持っていたのも。こんな、ふざけたことが大好きなのも。楽しそうに笑っている、いとおしい笑顔も。



